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15 司季(Aug.3th)

 治験開始日から三日目。司季の調査ファイルは、地道にを埋められていっていた。  先ず最初に治験薬についての解析データ、同じaグループである5人の顔写真と名前、プロフィール。そして同様に、職員の顔写真と名前、聞き出せた分のプロフィール。  まだまだ不十分だった。  早朝6時半、司季はベッドから起き上がると部屋を出て、一番近い場所にあるトイレに赴いた。  トイレの個室は五つずつと、それなりに広い。トイレで用を足すと、司季の目は完全に覚めた。    宿泊スペースは十字路になっており、その四つの端は全て扉になっている。一ヶ所はロビーへ通じる扉、二ヶ所はトイレ、そしてもう一ヶ所が回廊に出られる扉だった。  司季は回廊へ通じる扉へ近付いた。手首に着けたタグは反応せず、扉は開かなかった。  2号室へ戻ると、据え付けの小さな洗面台で身支度を始めた。  それが終わると、洗面台横の壁の前で、手のひらを(かざ)し、何もない宙をスライドさせた。壁のその部分に30cm角の開口が現れる。それはランドリー・シューターで、司季は身支度に使用した、支給品の白いタオルをそこに投下した。  タオルは音も無く落ちていく。  司季はふと興味を持ち、義眼デバイスを操作して、暗視モードに切り替えると、ランドリー・シューターの暗闇を覗き込んでみた。当たり前だが、ここから見える範囲は限られており、真下がどうなっているのかまでは、分からなかった。  司季は初日に使用したドローンの送信機を取り出し、有線で繋がると、1cmサイズのドローンの予備をコントロールした。  ランドリー・シューターの角穴の中に、ドローンを送り込む。  ドローンの暗視モードが自動で作動して、ダクトの壁の映像が確認出来た。3mほど下りると、アームの付いた円柱型ロボットが、洗濯物を一つ一つスキャンしているようだった。 ――体液の検査とか…?  体液というワードで、司季は昨夜のことを思い出した。  昨夜、0時を回った頃、司季は何気に隣の3号室を監視カメラで除いて見たのだった。3号室は村崎紬の部屋で、彼は自慰の真っ最中だった。  壁を背にしてベッドの上に座り、下半身を露出した村崎は、後孔に極太のディルドを挿入していった。  監視カメラは音声まで捉えない。それなのに、彼の激しい喘ぎが聞こえてくるようだった。 ――男だし、溜まったら抜くのが普通だけど、そのやり方は一般的じゃないな…。  冷静さを保ちつつ、熱が自身に伝染する前に、覗き見を中止した司季だった。  円柱型ロボットが、ドローンに気付いたような素振りを見せた。  司季は慌てて、ランドリー・シューターからドローンを回収する。  その後、司季は常に検査されているかも知れない事を、念頭に置いた。   午後3時、まだ話を聞いていない治験者を探す司季に、村崎が声を掛けてきた。 「ねぇ、これからティータイムに付き合ってよ。ここのスイーツ、凄く美味しいんだよ。」  司季は内心、女子か、と突っ込みながら、彼に付き合う事にする。  ふと、司季は村崎から甘い香りを感じ取った。自然界にある花のような、それでいて本能を擽るような甘い香りだ。  普段、香水を好まない司季は、もっと嗅ぎたいと思う自分に驚いた。 「なんか、香水付けてる?」 「付けてないよ。なんか匂う?」 「いや、それなら気のせいかな。」  本人が否定したので、司季はそれ以上、追及するのをやめた。  白い廊下から食堂へ一歩入ると、温かみのある色彩で溢れた、カフェ・レストランへと情景が一転する。  四人掛けのテーブル席六つの内の二つに先客があり、彼らもティータイム中のようだった。  村崎と司季も空いてる席に、向かい合って座った。 「ガトーショコラとかお勧め。甘さ控えめだし、二個とか普通にイケるよ!」  村崎がテーブル上をタッチして、カフェメニューを表示させた。 「いや、俺はコーヒーだけでいいかな。」  司季はケーキを拒否したが、村崎がそれを許さず、強制的に注文してしまった。 「ねぇ、都積君のコト、司季君って呼んでいい?」  不意に強請るような目線を、村崎に送られる。 「別に構わないよ。俺は村崎君って呼ぶけどね。」 「別に構わないよォ。…僕ってムラサキって感じだしね。」  村崎は自身の瞳を指し示した。よく見ると、彼の虹彩は紫掛かっている。 「デザイナーズ・チャイルドなのか?」  一時期、セレブリティの間で多額の金を支払い、生まれてくる子供の瞳や髪の色を、事前に設定する遺伝子操作技術が流行っていた。その遺伝子操作をされて生まれて来た子供をデザイナーズ・チャイルドと呼ぶ。 「残念ながら、違うよ。(うち)はセレブじゃなかったからね。一時的に変えられる注射があるでしょ?それで変えてるんだ。」 「ムラサキに因んで?」 「まあね…。」  テーブル付きの壁の一部が開口し、トレイに乗ったケーキセットが二人分、出て来た。  村崎は早速、ガトーショコラにフォークを入れ、口へと運ぶ。それから、幸せそうな顔をした。  司季は取り敢えず、コーヒーを啜る。 「村崎君は細いのに、食欲旺盛だよね。」 「普段は少食なんだけど、ここで出される食事が美味しくてさ。そう思わない?」  司季は頷いてみせる。 「確かにね。でも、俺は三食で十分かな。」  そう言いながら、司季はガトーショコラを一口、食べてみた。柔らかな甘みが、ふわりと広がる。  更にもう一口と味わう司季を、艶っぽく見つめていた村崎が、声を潜めて問う。 「司季君って、…男の経験あるでしょ?」  ギクリとしたのをおくびにも出さず、司季は村崎を見返す。 「…ゲイの勘?」 「あ!やっぱりあるんだ。…どっち?()れちゃう方?()れられちゃう方?」 「ケツに突っ込まれて、よがった事なんか、一度もないよ。」 「へぇ。…僕の予想では、司季君って、結構身勝手なHしそう。」 「そんな事ないよ。ちゃんと相手を優先する。」 「上手い?」 「…試したいのか?」  話が段々と、怪しい方向へ進んでいく。  必然的のように司季の脳裏にちらつくのは、昨夜の村崎の痴態だった。 「浮気はしないよ。でもさ、溜まってるのかな?最近、体が熱くて…。」 「村崎君はここへ来て、今日で何日目?」 「えっと、…十日目。そっか!僕、十日もセックスしてないんだ!」  村崎は重大な事に気が付いたような顔になった。 「…チョコレートの催淫効果を信じる?」  司季は自分の分のガトーショコラをフォークで掬うと、村崎の口元に差し出した。村崎は誘われるままに、それを口にする。 「今は…信じる。」 「食べ終わったら、村崎君の部屋に行こうか?」 「…うん、行く。」  先程、浮気をしないと言ったばかりの村崎だったが、あっさりと応じた。  ティータイムを早目に切り上げ、二人は宿泊スペースの村崎の部屋に入った。  彼のベッドには、昨夜見た極太のディルドが転がったままになっていた。それを拾った村崎が、提案をする。 「本格的なのはシないでさ、疑似的な感じでもいい?」 「疑似的って?」 「司季君のを口でするから、司季君はコレで僕の中を犯して。」  村崎がディルドを差し出した。  司季が承諾すると、村崎は先ず、司季にズボンを脱いで、ベッドに仰向けに寝るように言った。司季が従う間に、村崎自身もズボンを脱ぎ去る。  仰向けに寝た司季の顔に背を向けて、村崎は跨ってきた。そのまま前に倒れ、ロングTシャツの裾を捲った。村崎の興奮した息遣いが、司季の剥き出しの男根に掛かる。  司季の顔の前に、村崎の白い尻が強請るように迫って見えた。 「おい、ローションとか要らないのか?」 「…最近、濡れるんだ。だから、要らない。」 「本当か…?」  半信半疑の司季だったが、自身のものが村崎の口腔内に含まれたと分かると、お返しとばかりに、ディルドの挿入を開始した。  確かに、村崎が言うように濡れているようだ。それでも少しずつ、ゆっくりと浅い抜き差しを繰り返しながら、徐々に奥へと挿入していく。  村崎から漂う芳香が、一際、強くなったような気がした。 「…ん、…ん!」  口淫を続けながら、村崎は感じているような声を洩らした。  その時、監視カメラが映し出す、妖精の声が聞こえた。 「お二人がしているのは、禁止行為です。速やかに、離れて下さい。繰り返します。――」  それを聞いて、司季は村崎の後孔から、穿つそれを引き抜いた。 「なんで…?」 「警告されてる。職員に通報されるんじゃないか?」 「でも、このままじゃ終われない…!」  行為を続けようとする村崎を止め、司季はベッドから下り、急いでズボンを穿いた。  そのタイミングで扉が開けられ、盛澤という職員が入って来た。 「治験者同士の性行為は、禁止されています。」 「じゃあ、職員さんとならいいの?」  ズボンを脱いだままの姿で、村崎が問う。 「それも禁止されています。」  司季は盛澤と同じくらいに冷静な表情で、彼に質問する。 「この症状って、治験薬に関係してます?」 「…たまに、こうなる方がいらっしゃるようですが、その場合は、お一人で処理して頂くことになっております。」  否定の言葉は帰って来なかった。 「副作用って事ですよね?」  更に司季が問うと、盛澤は頷く。 「副作用に関しては、同意書にサインを頂いておりますが、何か?」  司季が閉口すると、盛澤は村崎を部屋に一人残し、司季を部屋から連れ出した。 「今後、気を付けて下さいね。」  そう一言、司季に告げ、盛澤は立ち去った。

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