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序奏(3)

 この世に生を成した時から持つ、己が放つ匂いで引き寄せられるという特殊な方法だった。  香りは互いに惹かれあい、共鳴すると同時に、一種の媚薬的効果も伴うらしい。互いに惹かれあった者同士は愛を育み、身体を重ねて愛し合う。  その行為は、二人を繋げるためのもので、妖力を分け与える最も重大なものだった。  ところどころ曖昧(あいまい)なのは、暁にはまだ生涯を共にする伴侶が見つかっていないためである。  ――が、うち弟二人はすでに伴侶を見つけ、幸せに暮らしている。  一人目は末の弟である古都だった。  古都には末の王族というにも関わらず恐ろしいほどの妖力を秘めていた妖狐であった。  しかしながら、その力は強力すぎるため、本人さえも使いこなすことは困難で、亡き父、祇王は、古都に妖力を使うことを禁じた。  よって、力は里の者には一切知らされることなく、弱小の妖しとされていた。  だが、古都の真の力を知っていた者がいた。それが、古都と幼なじみである神楽だ。  神楽は、幼い頃に両親を人間に殺され、密かに復讐心を燃やしていた。その目的を達するための標的が古都だった。  古都は人情深く、優しい性格のため、両親の命を奪われ孤独になった神楽の傍に寄り添っていた。  それが、そもそもの間違いだったのだ。  古都と共に過ごしていくうち、神楽は古都に情を抱くようになり、さらには両親の命を奪った人間に復讐するため、古都の(みさお)を奪おうとした。  だが、神楽がその行動を起こすには、邪魔な者が二人いた。  父と、母だ。

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