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序奏(6)

 万が一、幸が父や母のように殺されるようなことにでもなれば、残された古都は悲しむ。  なんといっても、妖狐の結婚は一生を共にすると誓うものだ。  幸がこの世から去っていった時、誰よりも寂しがり屋な古都は、生きていけなくなるだろう。  そうなるのは、兄として、なんとか避けたい。  ――いや、古都に限ってだけのものでもない。  もう一人の弟、最近伴侶を持った紅だってそうだ。  紅は男子でありながらも、性格上とても優しく、穏やかで面倒見がいい。  生前の母と生き写しと言われるほど容姿も美しく、妖狐の中で皆に慕われていた。  その伴侶、比良(ひら)も恐ろしいほどの美しさと優しさを兼ねていた。二人はまさに似合いの伴侶である。  比良もまた、両親を失った自分たちと同じように天涯孤独の身であった。その比良にもし、紅の命を奪われたと知らせがあれば、おそらく、生きてはいけないだろう。  ……やはり、この任務に就くのは、未だ独身である自分が相応だ。  しばらく物思いに(ふけ)っていると、一階の玄関から、扉を強く叩く音が聞こえてきた。  暁は何事かと、ベッドから腰を上げる。  立ち上がると、そこには細身ではあるものの、鍛錬を重ねたたくましい上半身が鏡に写る。  暁は無造作に床へと投げ捨てていた黒いシャツを手にし、数あるボタンを無視してそのまま広い肩に引っ掛けるように羽織ると、一階の玄関へと向かった。

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