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第3話・邂逅(1)

(一)  紫苑(しえん)は底が見えない深い闇の中にいた。  それはあまりの長い年月をこの場所で過ごしていたた。おかげで身体全体を動かすことが困難を要する。まず初めに両の手を握り、開き、身体の機能を確かめた。  ――それは遠い昔。腹部に受けた深い傷のおかげでこの地に埋まり、外に出る機会を(うかが)っていた。  その傷もどうやら()えたようだ。  あのいまいましい時から、どれほどの時間を費やしたことか。  紫苑は傷が癒えるこの時まで、彼らに見つからないよう、魔力を抑えることに必死だった。  ただ毎日、いつ見つかるのかと恐れ、過ごしていた。 (それもこれも奴らのせいだ。ぼくをこんなめにあわせた、あいつらに復讐してやる!!)  紫苑はこの窮屈な闇から脱け出すべく、両手を頭上へと伸ばした。  すると、伸ばした指先から、ひんやりとした空気が感じられる。それは彼が外の空気に触れた瞬間だった。  遙か地上を目指してよじ登り、顔を出せば、そこには幾数もの木々が生え、自由気ままに広がった枝が覆う森……否、林があった。  朝露で濡れた木々の香りが、彼の鼻腔をくすぐった。 (久しぶりの外だ)  紫苑は狭苦しいジメジメした場所から開放されると、ぐるりと周囲を見回し、赤褐色の土に埋まった身体を引き抜いた。  そこは地中深く存在した時とは違い、素足には冷たい地面の感触が伝わる。外に出られたという悦びが紫苑の胸を満たした。  弾んだ気持ちで、交差する幾数もの枝の隙間を眺めれば、藍色から徐々に白くなりつつある空が、輝く星々を消していく……。

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