9 / 45
第3話・邂逅(1)
(一)
紫苑 は底が見えない深い闇の中にいた。
それはあまりの長い年月をこの場所で過ごしていたた。おかげで身体全体を動かすことが困難を要する。まず初めに両の手を握り、開き、身体の機能を確かめた。
――それは遠い昔。腹部に受けた深い傷のおかげでこの地に埋まり、外に出る機会を窺 っていた。
その傷もどうやら癒 えたようだ。
あのいまいましい時から、どれほどの時間を費やしたことか。
紫苑は傷が癒えるこの時まで、彼らに見つからないよう、魔力を抑えることに必死だった。
ただ毎日、いつ見つかるのかと恐れ、過ごしていた。
(それもこれも奴らのせいだ。ぼくをこんなめにあわせた、あいつらに復讐してやる!!)
紫苑はこの窮屈な闇から脱け出すべく、両手を頭上へと伸ばした。
すると、伸ばした指先から、ひんやりとした空気が感じられる。それは彼が外の空気に触れた瞬間だった。
遙か地上を目指してよじ登り、顔を出せば、そこには幾数もの木々が生え、自由気ままに広がった枝が覆う森……否、林があった。
朝露で濡れた木々の香りが、彼の鼻腔をくすぐった。
(久しぶりの外だ)
紫苑は狭苦しいジメジメした場所から開放されると、ぐるりと周囲を見回し、赤褐色の土に埋まった身体を引き抜いた。
そこは地中深く存在した時とは違い、素足には冷たい地面の感触が伝わる。外に出られたという悦びが紫苑の胸を満たした。
弾んだ気持ちで、交差する幾数もの枝の隙間を眺めれば、藍色から徐々に白くなりつつある空が、輝く星々を消していく……。
ともだちにシェアしよう!