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邂逅(2)

(ああ、ようやく出られた。この時をどれほどの時間、夢見ていたことだろう)  紫苑は、解放されたことを実感し、ただ、ぼんやりと林の中を見つめていた。 「人間発見」  それは彼の後方だった。ヒキガエルが鳴いたような、耳障りな声が紫苑の耳に届いた。  ようやく念願だった不自由な場所から自由の身になったのだ。いつまでも開放感に浸っていたい。  声が醜いのだ。おそらく容姿も相応だろう。  その醜い登場人物のおかげで、せっかくの高揚感が台無しになるのはあまりにも腹立たしい。  紫苑は眼だけを動かし、ヒキガエルのような醜い声の方向に目を寄越(よこ)した。  紫苑の視線の先――そこには、肉がついていない、骨しかないように見える細身の男がいた。  彼は人のなりをしているが、身に(まと)う魔力は隠せない。  それは紫苑ほど強力ではないものの、人間にはない力が感じられた。 「人外か……」  紫苑が放った言葉はつまり、人から外れた存在――つまりは『悪魔』という意味である。  細身すぎる悪魔の身長は、紫苑と同じ、一七〇センチほどだろうか、まるで鮮血を身体中に浴びたような赤のスーツを身につけていた。  悪魔は細い首を傾けて、目前に立つ紫苑を馬鹿にするようにケタケタと薄気味悪い声を上げて笑っている。  なんとも不愉快にさせる笑い方だ。  紫苑は優越感に浸っている気分を邪魔をされ、苛立った。 (こいつらはいつだって不愉快にさせる名人だ)  ――いや、今回に至っては現れてくれて良かったのかもしれない。

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