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邂逅(3)

 紫苑は薄気味悪い悪魔を一瞥(いちべつ)した後、自身の身なりを確認すると、小さく舌打ちをした。  ――というのも、彼が着ていた服は所々破れ、数千年前に流した自分の赤黒くなった血液がべっとりとついていたからだ。  目の前の悪魔が着ている服の趣味は恐ろしいほど素晴らしいもので、美的センスを疑う。  それでも自分が着ている服よりも幾分かはマシだ。  紫苑は自分の身なりを確認した後、ふたたび背後にいる男を紫の瞳に入れ、決意した。  紫苑が目の前にいる悪魔を恐れることなく、対峙するのは、彼もまた人外(じんがい)と言われる悪魔だったからである。  しかし、同じ悪魔という立場にいながら、目の前の人外は紫苑の正体に気づいてはいなかった。  それは、紫苑が魔力を抑える手段を手に入れたからである。  手に入れた――いや、違う。そうならざるを得なかったと言う方が正しいだろう。  それは、紫苑が千年という長きに渡る時間を、彼らに見つからないよう、身を潜ませ、過ごしていた、生きるための方法だったからだ。  彼らに見つかれば最後、殺されてしまう。  そうして紫苑は自分の毛穴から吹き出る魔力を最小限に留め、体内に蓄えることで、腹部に開けられた風穴を治療し終えた千年経った現在(いま)、この地に立ったのである。 「聞こえていないのかな? ぼうや」  物思いにふけっていた紫苑に向かって、目の前の悪魔は事もあろうに(あざけ)る。

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