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邂逅(4)

 紫苑はことのほかプライドが高かった。  紫苑は薄笑いを浮かべる口を閉じさせるべく、足早に相手との距離を詰めると、胸ぐらを引っ掴み、そのまま軽々と投げ放った。  細身の悪魔は周囲に佇む大木を何本も()ぎ倒したすぐ後、赤褐色の地面に落ち、静かな空間にすさまじい音を響かせ、砂埃(すなぼこり)を舞わせた。 (――弱い。悪魔とはこれほどまでに軟弱な生き物だっただろうか) 紫苑は今や冷たい地面にのびている悪魔を鼻で笑った。  だが、紫苑とて、数千年前では目の前にいるこの悪魔同様、自分も地面にひれ伏し、体内を巡る血液を流して無様な姿を(さら)け出していたのだ。  それは紫苑がまだ幼少の頃ことだ。  彼には父だと思い尊敬し、母だと思い敬(うやま)い続けた人物がいた。  その彼らに追いつこうと、純粋に力を求めていた幼少の頃――。  紫苑が尊敬の念を抱いていたそれらは、ある日、自分に刃を向け、さらに恐怖心を植え付けたのだ。 (――許せない!!)  裏切りがあった過去の出来事を思い出し、苛立ちを露(あら)わにした紫苑は、地面に倒れ、泡を吹いている細身の悪魔から乱暴に服を剥(は)ぎ取ると、今となっては無様な薄汚れた布切れを取り除き、新たに手にした『それ』を身につけた。 「……けて!」  それは紫苑が着替えを終えた直後だった。緑が生い茂る、林の奥から、危機感を帯びた声が聞こえた。 (今度はいったいなんだ?) 「助けて!!」

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