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邂逅(5)

 やっと邪魔者はいなくなり、静寂が戻ったかと思った矢先、周囲を騒がせたのは、ひとりのひ弱な女の声だった。 「助けて!!」  その声に――言葉に――紫苑の苛立ちは募るばかりだ。  紫苑は、助けを呼ぶだけで自分では何もしない他力本願な生き物が大嫌いだった。  その生き物とは、今まさに、この林の中で助けを呼ぶ人間のことだ。 「助けて!」  たびたび聞こえてくる耳障りなその声で、紫苑の苛立ちはピークに達していく。  そんな中、助けを求める声は次第に大きくなり、木々の間から姿を見せた。  金色に染めたのだろう短い髪を振り乱した女は、太腿ほどしかない短いスカートに剥き出しの両肩。そして背中と必要以上に白い肌を露出し、まるで襲ってくださいと言わんばかりの容姿をしていた。 (これだから人間は馬鹿なんだ)  助けを求めるくらいなら、まず先にそういったことを起こらないよう十分に対策を練るべきではないのか。  紫苑は女の軽率なその容姿に呆れるばかりだった。 「お願い! 助けて!」  だが、女の方は紫苑が何を思っているのかも知らないし、ましてや彼が何者かも知らない。  紫苑を見つけると、彼の背中に隠れた。  どうやら女は、紫苑のことを真っ当な人間だと判断したようだ。  だが、それも無理はない。  なにせ紫苑は悪魔の中でも上級で、人間と変わらない容姿をしていた。  悪魔の階級は上級になればなるほど人型に近づくという特性をもっていたのだ。

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