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邂逅(6)

 それもこれも、人間の魂を喰らうための、騙す手段なのだ。  悪魔にとって、人間の憎悪、妬み、苦しみといった負の感情は素晴らしいご馳走だった。  そのご馳走にありつくのに一番効果的なのが人型で彼らに近づき、恐ろしい姿になって最高潮まで与えた恐怖心を(えぐ)り取り、魂を喰らうのだ。 「見つけた」  紫苑は、自分の背に隠れている何も知らない愚かな女をどうしたものかと思考していると、木々の隙間を縫うようにして、女が駆けてきた方向から大きな影が野太い声を発しながら姿を現した。  野太い声は地響きにも似ており、まるで地獄からやってきた使者を思わせる。声の質からして男であると有に判断できた。 (――此奴も悪魔か)  影がこちらへ向かってくると、次第に輪郭がはっきりとしてくると同時に、男の身体から発せられる、人間にはない力も感じた。  紫苑の体格は後ろで隠れている女と同じくらい細身で、対する目の前の男はその紫苑を横に三人分並べたような巨体だ。  身長も紫苑より高く、頭三つ分は遥かに超える大男だった。  しかし紫苑は、巨体の大男を見ても臆することはなかった。  彼はあろうことか、面倒くさそうに見据え、唾を吐き捨てた。  大男は、たしかに人型ではあるし、身体から漏れる魔力も並よりは上だろう。空気中に散っていく魔力は緊張感を持たせ、振動させている。  ――が、それでも取るに足らない。  これもまた紫苑よりも力の劣るものだったのだ。 「お前、そいつの仲間か?」

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