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邂逅(9)
男は舌なめずりをすると、欲望を実らせるべく、目の前にいる、表情一つ変えない紫苑に向けて勢いよく拳を放つ。
空気を裂くような鋭い音が、大男の拳から弾き出される。
――まずは、この男を少し痛めつけ、自分よりも強いとわからせてから、その行為に及ぼう。
彼は、そう考えた。
男の放つ拳は見た目以上に速く、うねりを上げている。
空気を切り裂くような音が歪 みを上げる。
命中すれば骨は砕け、動けなくなるだろう。
だが、紫苑は片手で軽々と彼の拳を受け止めた。
紫苑の手の中にある彼の拳からは、メキメキとプラスチックが壊れるような音が上がる。
それは男にとって、予想外だったことは言うまでもない。
男は、まさか自分よりも華奢な体格の人間に自慢の拳を受け止められるとは思ってもみなかったのだ。
しかし、学習能力が極端に低いのか、それともプライドが自身の魔力に見合っておらず、高すぎるのか、諦めの悪い男は、残っているもう一方の拳も、紫苑目掛けて放つ。
紫苑は鼻先で笑うと、もう片方の手でも大男の拳を容易に受け止めた。
拳を包み込む紫苑の両手はさらに力が込められる。
大男の醜い悲鳴と、骨が砕ける耳障りな音が周囲一帯に反響する。
紫苑は大男の醜態に耐えきれず、両手を解放し、大男の鳩尾(みぞおち)に膝をお見舞いした。
紫苑の攻撃により、大男の身体が吹っ飛ぶ。
そして、邪魔者は自分の前から消え失せるだろう。
紫苑は勝利を確信していた。
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