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邂逅(10)

 だが、紫苑の予想は見事に外れる。  男は以外にも、見かけより随分(ずいぶん)と身軽だった。致命傷を負った両手をぶら下げ、地面に着地したのだ。  やはりこの悪魔、人型だけはある。そこら辺にいる浮遊霊などとは作りが違ったようだ。 「きさまああああ!」  大男は怒りを露(あらわ)にし、充血した眼を紫苑に向ける。  悪魔とはプライドが高い生き物で、はじめに見下した相手には、とことんまで食い下がる。  従順に立ち振舞う者もいるが、しかし実際は、自分以外の誰かに忠実になることなどけっしてない。  忠誠を誓ったかのように見せかけ、安心させたところを一息に殺すという冷酷な手段を持っていた。  その手段で、紫苑は殺されかけたのだ。  紫苑は身をもって、悪魔というものについて何たるかを理解していた。 「おい(ろう)、こっちに来てくれ。いい獲物がいるぞ!!」  どうやら、ひとりでは紫苑には勝てないと判断したのだろう。男は仲間を呼んだ。  だが、彼への返事はなく、周囲には静寂が広がるばかりだ。 「弄、どうした? おい、返事ぐらいしたらどうだ?」  いくら待てども返事がない仲間に、焦りを覚えた男は、静寂を破り、ふたたび吠える。 「……弄、おい弄!! 返事をしろ、弄!!」  幾度となく、懲りずに仲間を呼ぶが、やはり返事はない。  いったいどういうことかと、大男は紫苑に視線を移した瞬間――彼は目を疑った。  自分よりもふた回りは違う体格をした女顔の人間。

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