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邂逅(11)

 その人間が着ている真紅の襟付きベストに同じく真紅色である細身のノータックパンツ。その下には真っ白い長袖シャツが覗き、胸元にはエメラルドのブローチがある。  それは紛れもなく、彼のパートナーである、弄が着ていた服だった。 「おい……お前……。その服をどこで手に入れた? それは、弄が着ていた服じゃ……」  呼んでも姿を現さないパートナー。そして華奢な人間が着ている、パートナーと酷似した洋服。それらが指し示す事実――。  どんなに間抜けであったとしても、目の前にいるこの華奢な人間が、弄を倒したということは理解できた。 「ば、馬鹿な……弄は俺と同じ中級の悪魔だぞ? それを人間風情が倒せるわけがねぇ……。弄はどこに……」  しかし、男は、自分と同じ強力な魔力を持つパートナーが意図も容易く、人間に倒されたということを信ることが出来ず、自ら導き出した考えを否定した。  ――にも関わらず、彼は本能でその事実を汲(く)み取る。  その証拠に、先程まで威勢が良かった男の身体は小刻みに震えはじめた。 「ああ、この趣味の悪いこれか。これを着ていた奴ならあっちだ」  紫苑は打ち震える男をさらなる恐怖へと打ちのめすため、細身の悪魔が転がっている方向を指さした。  紫苑もまた、この悪魔の負という感情を喰らわんとしていたのだ。  そんな紫苑の意図を推し量る余裕さえも失った愚かな男は、悪魔として尋常ではない視力を(もっ)て、目を凝らし、紫苑が指す方向を見つめた。

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