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邂逅(12)

 その瞬間、彼は自分の目を疑った。  そこには、たしかに細い棒きれのような男が、今の季節には似合わない寒空の下、裸で倒れていた。 「弄は悪魔だ……たかが人間にやられるはずは……お前、まさか……!!」  大男がそう言った矢先、紫苑もまた自分達と同じ悪魔だということに、やっと気がついたようだ。  だが、それも無理はない。力を制御することをすっかり覚えた紫苑は、この男から見れば非力であり、軟弱な人間と同じように見えたのだろうから……。  ――軟弱。 (ふざけるな! ぼくはもうあの頃とは違う!!) 『ひ弱な人間と自分は同等の生き物』  その内容が火種となり、紫苑は動いた。  紫苑は風の如く、瞬時に男との間合いを縮めると、頭蓋骨(ずがいこつ)鷲掴(わしづか)みにする。赤褐色をした硬い地面へと一気に叩き込んだ。  硬い地面に頭部を叩き付けられた男は、断末魔の声を上げる暇なく、べしゃりと嫌な音を立て、紫苑の足元に転がった。 (ふん、こんなものか)  いくらこの男が中級クラスの悪魔といえども、今の紫苑に敵う相手などいやしない。――あの、紫苑を殺そうとしたあの悪魔共以外には……。  自分を(いまし)めた、彼らを葬り去るには、自分はもっと強くならなければならない。  紫苑は無様に転がった醜い姿のそれを蹴り、自分から遠ざけた。  男の残骸は無惨(むざん)にも転がり、やがてひとつの大木にぶち当たると、大きな音を立てた後、ふたたび静寂が辺りを包む。

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