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邂逅(14)

 細い足をばたつかせ、尚も紫苑の手から逃れようと、もがいていた。  苦痛は紫苑にとってこの上ないご馳走(ちそう)だ。  負の感情を思う存分吸収した紫苑の前に、女は抵抗すらできないまま、宙を浮く足も、やがて動かなくなる。 (……こんなものか)  紫苑が吐き捨てたその時だった。ふいに背後から凍てつく殺気を感じ、手にしていた首を放す。同時に女の身体は力なく地面へと落ちた。  するとすぐに数本の銀製のナイフが紫苑の足元にある地面に突き刺さった。  それに続き、またもやナイフが恐ろしい速さをもって紫苑の胴体を狙い、襲い来る。  紫苑はナイフに当たる直前、間一髪のところで避ける。――直後、紫苑のすぐ背後にあった木に、ナイフは乾いた音を立てて突き刺さる。  しかし、ナイフはまた新たに生み出され、休む暇なく紫苑に向かい来る。彼は踊るように、姿を見せない敵からの攻撃を避けていく。 (いったいこの攻撃を仕掛けてくるのは何者だ、悪魔か? ――いや、道具で攻撃をする戦法は悪魔では考えられない)  紫苑は思考を巡らせ、生まれた考えを否定した。  なにせ悪魔は、恐怖心や苦痛を喰らい、力を増幅させる生き物だ。 こんな生半可な攻撃を仕掛けることはない。  恐怖を植え付けるならば、もっと絶対的な方法で獲物を追い詰めるはずだ。  あの、木々の間に転がっている大男のように、最も合理的な方法で……。  ――だとすると、この攻撃は人間によるものだろうか?

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