25 / 45

邂逅(17)

 夜の帳に似た漆黒の短髪は、隣にいる男よりも艶やかで、鋭い目は黒真珠か、オニキスのような輝きを秘めている。その髪と相俟(あいま)って、彫刻のような象牙色の肌が浮き彫りになっていた。  タートルネックの上に着込んだジャケットの上から見てもわかる広い胸と肩、しかしシルエットはすらりとしていて、筋肉質でもなければ軟弱でもない。  薄い唇はへの字に曲がり、冷淡な表情に見える一方で、どこか甘いマスクを被っているようにも見える。頬から鋭い顎にかけて、シャープで端整な顔立ちをしていた。  隣の男が黒豹であるならば、この男は密林の王者である虎だろうか。  それに気のせいか、彼の周囲から何かしらの香りが流れ出ているように思える。  しかし、この香りを理解してはならないと、そう本能が告げている。  この得体の知れない香りといい、いったい奴らは何者だろうか。  この香りのおかげで、彼らが何者であるかをますます分析しづらくなった紫苑は、自分の前に悠然と立ちはだかるふたりの正体を知るため、内側から溢れ出る怒りを必死に抑え、彼らが纏う魔力を識別する。  そうすると見えてきたのは、暗黒といった混沌の種類である魔力ではなく、人間のような透明な霊力でもない。人間の霊力には近いが、それよりももっと研ぎ澄まされた、冷たい刃物のようだ。これは動物が放つ力のように思えてくる。  ――動物。  そのキーワードで、紫苑はようやく彼らの正体に気が付いた。

ともだちにシェアしよう!