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邂逅(21)
あろうことか、暁はその匂いを、目の前の悪魔から感じ取っていた。
悪魔から香ってくる麝香 は、暁の全神経を狂わせんとばかりに、体内の興奮作用 が生成されているのがわかる。
こんな時に――とそう思うのに、目の前にいる美しすぎる悪魔に釘付けだ。
(いくら亡骸とはいえ、安らかに眠る死者を呼び起こし、喰らったかもしれないこのハイエナのような悪魔が俺の伴侶だというのか?)
暁は美しい悪魔に魅了される反面、ますます困惑を隠せずにいた。
しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。
目の前にいる美しい悪魔は、魔力を練り上げている。
それに悪魔の後ろで倒れている人間が心配だ。
見たところ、彼女の心臓は停止している。言うなれば瀕死状態だった。
しかし、妖力を持つ自分や生成が彼女の心臓に、ほんの少し刺激を与えてやれば、助かる確率は高い。
祇王のように、むざむざと殺させてはならない。
暁は、欲望に打ち震える自身に言い聞かせた。
そうやって暁が欲望と理性が内面で交差し、思考している最中であっても、目の前の悪魔は待ってはくれない。
致命傷ではないとはいえ、左脇腹にはたしかな怪我を負わせたにも関わらず、怒り狂っている悪魔は傷を気にすることなく、勢いよく大地を蹴り、恐ろしい速さで暁の懐へと入り込んだ。
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