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邂逅(22)

 拳が、暁目がけて突っ込んでくる。  暁は、悪魔の拳が鳩尾(みぞおち)に当たる;既(すんで)のところで彼の拳を受け止めた。  ぶつかり合うのは互いの拳だけではない。互いに纏っている魔力と妖力が拮抗し、蜷局を巻いて周囲に爆風を巻き起こす。  二人を中心にしてぶつかり合う力はまるで、竜巻のように凄まじい。  二人から発せられる爆風でさえ身の危険を感じた生成は、力の中心となる渦から一メートル以上も離れたというのに、まるで身を削られるような痛みが全身を襲う。  力が轟々とうねりを上げているそんな状態であっても、暁は冷静だった。  どうやら悪魔は、暁が与えた傷の痛みが尋常ではないらしい。魔力を練って、具現化させることもできないようだった。  だが、悪魔の魔力は衰えてはいない。血走った目とひん曲がった口からの表情は未だ変わることがない。  ――苦痛。  この悪魔はそれを感じないとでもいうのだろうか。 (さすがは父、祇王の亡骸を喰らった悪魔だ)  暁は感嘆の声を上げずにはいられなかった。  暁は遠距離よりも接近戦を好んでいた。なぜなら、相手の考えを行動で察知し、それをいいように自分の動きへと変えていくという戦闘スタイルを取っていたからだ。  だが、今は違う。この悪魔とだけは、接近戦は不利以外の何者でもない。  その理由は、この悪魔から発する麝香の香りにあった。これが暁を翻弄し、眠っていた欲望を呼び覚ます。  近づけば近づくほど、甘美な馨香(けいこう)が彼を襲う。

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