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邂逅(26)
(三)
紫苑 は冷たい地面に身体を押し付けられ、焦っていた。
なんとかして目の前の妖狐から逃れようと身体を捻るが、思いのほか脇腹にくらわされた傷が痛みを訴え、邪魔をする。
血液こそ、そこまで流れてはいないが、この傷口……ここは魔力を錬成させて放つ時の、いわば急所だ。
その部分を狙い、遠距離から、しかも僅か数センチの尖った刃物で攻撃を仕掛けてきた。よほど戦闘に手馴れていなければ、なかなかできる芸当ではない。
「くそっ、はなせ!!」
妖狐の耳元で怒鳴ってみせても、彼は自分の拳を包む手を離さない。それどころか、拳を包んでいた相手の手が、歯向かう紫苑の腕を抑えるように形を変えてくる。
それに、紫苑の太腿の間に彼の身体が入り込み、両脚は思い切り開いている。
紫苑はこれまでに、こんな戦闘を繰り広げた経験はない。
紫苑が知る戦闘とは生死を分かつもの。意識を失えば最後、もう二度とこの地に足を踏むことはできない。――そんなやり取りだ。
だが、今のこの体勢はどうだろう。
両太腿を出来得る限り開ききり、その間には相手の身体が挟み込まれている。
これはまるで、性行為を行う時のようではないか。
(馬鹿な、そんなんじゃない!!)
紫苑はあまりにも突飛な思考を否定する。だって紫苑の上に乗っているのは妖狐という敵で、しかも同性。だから、けっしてそういうことではない。
しかし、そうは思っても、現状がモノを言っているように思えるのは気のせいなのだろうか。
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