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第2話
「ん? ここ… どこだ? 」
目を開いたと同時に視界へ飛び込んできた光希の姿に、驚いて起きようとするが、身体が上手く動かない。
「駄目ですよ。急に動いちゃ…… 内田さん、酔いつぶれちゃったんで、課長命令で俺のアパートに連れてきました。水、飲みますか? 」
「あ、そうか…… 悪い。いつもはこんなになんないんだけど」
差し出された水を飲もうと手を動かして起きようとするが、それを片手で軽く制され、どういう訳か光希の顔が急に近づいて唇が触れた。
「んっ… ふっ…… ん」
思わず口を開けてしまったのは条件反射による物だったが、何度か喉を鳴らしているうち、乾いた喉が潤うと共に意識がどんどん覚醒する。
「…… っ! お前っ、何してっ」
そこでようやくこれはまずいと焦った壮一が胸を押すと、掌で口を塞いだ光希が「シィッ」と小さく囁いて…… 人好きのする爽やかな笑顔で真っ直ぐこちらを見つめてきた。
「内田さん、ゲイですよね」
「なっ…… 」
確信しているような言い方に、咄嗟に上手く表情を作れず、顔から一気に血の気が引いて、蒼白になっていくのが分かる。
「そんな顔しなくても、誰にも言いませんよ。ただ、俺そっちの経験無いから、ちょっと興味あって」
最初の対応を間違えたから、誤魔化しても無駄だろうと腹を括った壮一は…… 大きく一つ息を吐いてから、どうしてそれを知っているのか不思議に思って光希に問うと、いたずらっ子のような表情で「内緒」と口の片端を上げた。
新入社員の頃から彼の噂はたまに耳にする。
男らしく整った顔は黙っていると威圧的だが、笑うととても愛嬌があり、女子社員からの人気がアイドル並だとか、それで仕事もかなり出来るから、言い寄ってくる女性が絶えず、常に彼女は切らさないとか―― 。
「でも、突然キスしてすみませんでした。なんか内田さんの顔見てたら、ムラッとしちゃって」
「気持ち悪くなかったのか? 」
「え、なにが? 」
本当に意味が分からないと言ったような表情に、壮一の中で箍が外れてしまったのは…… 酔いのせいもあったけれども、何より彼が自分の好みのど真ん中だったから。
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