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第3話

「じゃあ…… 俺を抱けるか試してみるか? 」  そんな、陳腐な誘い文句を舌に乗せながら…… 表情だけは、いつものポーカーフェイスを取り戻した壮一は、動かせるようになった腕を彼の首の後ろへと回した。  コクリ…… と、唾を飲みこんだ振動が、指先から伝わってくる。  近い人間を相手にするのが危険な事だと分かっていたが、興味津々といった様子で頷く彼を瞳に映し、遊び慣れた相手の方が、後腐れも無いだろうと壮一は安易に考えた。  だけど。  *** 「待ちました? 」 「いや、今来たとこ」  迎えに来た車に乗り込み少し走った所で聞かれ、いつもと同じ返答をすると、光希はクスリと喉で笑った。 「嘘、また早めに来て待ってたでしょう。いい加減、内田さんのアパート教えてくださいよ」  自然な動作で掌を重ね、 「ほら、こんなに冷たくなってる」 と、頬笑みを向けて告げられれば、年甲斐もなく胸は高鳴るけど表情には絶対出さない。 「汚ねぇから無理」 「掃除してあげるのに」 「バカ言ってら」  そんな、なんでもない社交辞令に喜んでなどいられない。今日は大事な話を彼に、切り出さなければならないのだ。  最初の日から三年間……不定期だが、時折こうして二人で会ってはセックスをする関係を、ズルズルと続けてきた。 「お前、彼女は?」 「え? ああ、まだ出来ないです。スランプかなぁ」  大抵光希に彼女が出来れば一旦この関係は止む。そして、再びフリーになった彼から連絡が来れば、気紛れに関係を持った。 「でも、内田さんがいればいいかな」  最初は取っ替え引っ替えだったが、ここ一年は彼女が出来たと聞いていない。だからといって彼の言葉が本気じゃないのは分かっている。  誘いに乗って抱いてみたら、思ったより具合が良くて、子供が出来る心配も無いし、後腐れも無い便利な関係。  だから、時折光希がふざけたように告白じみた言葉を発しても、壮一は軽くそれを受け流し、遊びの態度を貫いた。  そうでなければならなかったし、自分にとっても光希はただのセフレでしかない存在だ。と、自分自身に言い聞かせながら。

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