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虫①
(幼なじみ、雄也×良彦)
※虫出てきます。
「ねぇ!見て!アリさんだよー!」
「わっ、やめろよ!」
あいつはいつも俺の嫌いな虫を見せては楽しそうにしていた。
よく虫取りに付き合わされたっけか。
あの頃は嫌いだった虫も懐かしく感じる。
今でも出来るだけ触りたくはないくらいには嫌いだけど…
中学に上がる前にあいつは引っ越しだとかで遊ばなくなった。
当時小学生だった俺たちは連絡先も交換することなく今はもう社会人になっていた。
普通に高校、大学を出て今は病院に看護師として勤務している。
あいつが良く虫に刺されたり、追いかけて転んだりしていたのを見て医療関係に就きたいと思っていたからだ。
「狭山くん!今日から入院する患者さんお願いね!」
「あ、はい。204号室ですよね」
「そうよ!なんか山の斜面で足滑らして骨折したらしいのよー」
「へー、そうですか…」
狭山は俺の名前。
話しかけてきたのは先輩看護師だ。
よくしごかれてる…
とりあえず病室に行かないとな…
…ん?入り口に書いてある名前どこかで見覚えが…
コンコン
「失礼します」
ガラガラガラ
「今日から身の回りのお世話をさせて頂く、狭山です。よろしくお願いします。」
「…あれ?狭山?狭山良彦?」
「え、あ、はい。そうですが。」
「うわー!!奇跡じゃん!!俺だよー!暁月雄也だよ!!」
「えっ、雄也って…あの!?」
まさか最初に話していたあいつがここにいるとは…
まさに奇跡かもしれない。
俺たちは昔話を楽しんだ。
「あの時の良彦は面白かったよなー!今も虫嫌い?」
「嫌い…雄也は?まあ、聞かなくてもわかるけどさ」
「もちろん好きだぜ!好きすぎて今は大学で教授してるくらい!」
「それはやべぇな!…っと、そろそろ次の患者さんのとこ行かなきゃだわ!またな!」
「おう!あ!後で連絡先教えてな!」
俺はその日の仕事を終えた後、雄也に会いに行った。
「来たぞー」
「お!待ってたぞ!」
連絡先を交換した後、また昔話をして俺は帰った。
「まさかあいつがなー…奇跡…か…」
奇跡は起きてほしかった反面、起きてほしくなかった。
小学生当時、俺は雄也が好きだった。
嫌いな虫から守ってくれたりしたのが1番の理由だった。
小学生らしい理由だろう。でも、雄也が引っ越ししてくれて良かったと思っている。雄也にはこの気持ちを知られたくなかったから。
でもダメだ…。高校や大学で彼女を作ったけど長続きはしなかった。
振られる理由は大体「私より好きな人がいるんでしょ?だから良彦くんとはもう付き合えない。」
と言われていた。彼女たちには俺が雄也の事を引きずっているのを勘付かれていたみたいだ。
暫くして雄也は退院した。
それからはちょくちょく会っていた。
今日も雄也に引っ張られて近くの公園に来ていた。
「良彦みろ!アリの巣だ!」
「いや、だからなんだよ…」
「ここに砂糖を置くとな、ほら!みんな出てきた!」
「い、俺はあっちにいててもいいか…?」
いくら好きなやつの頼みでも虫の近くにはいたくない…
「えー、ダメだって!ほら!可愛いだろ?」
「か、かわいい…?」
どこが可愛いのか俺には理解できないな…
「あ!今日俺ん家こいよ!ちょっと頼みがあってさ…」
「え、いいけど…」
少し嫌な予感がしたが、俺は雄也の家にきた。
予想通り虫に囲まれている部屋だ。
あちらこちらで何かが蠢いている…
「な、なあ…虫のいない部屋ってないの…?」
「え?あー、寝室はいないよ!」
「そっちで話そうぜ」
寝室は虫の気配はなかった。
これでようやくリラックスできる…
「で、頼みって?」
「え、えーと…言いにくいんだけど…」
「早く言えよ」
「ひ、引かない?」
「どうせ虫関連だろ?」
珍しく勿体ぶって話す雄也。
「あ、あのさ、良彦って昔から俺の事好きだったよな?」
「えっ、あっ…そう、だな。」
バレていたのか…
「実はさ、俺も良彦の事好きだったんだよね…」
「え、マジ…?」
「今も気持ちって変わってない?」
「う、うん。彼女作ったりしたけど雄也の事忘れられなくて…」
「俺も…。だからさ、俺ら付き合わない?」
頼みってこういう事だったのか…
「断るわけねぇだろ!」
「…!!ありがとう!!で、頼みなんだけどさ!」
「え、付き合うことが頼みじゃねぇの!?」
「うん!そうだよ!とりあえず上だけでいいから裸になって!」
え?まって…えぇ!?脱げって…そういうこと…?
「えっ、いきなり…?」
「だって脱がなきゃ何も出来ないだろ?」
「わ、わかった…」
雄也に嫌われたくないし、俺はシャツを脱いだ。
「おー、いい体してんなー!」
「それなりに鍛えてはいるからな。てか頼みってなんだよ、早くいえよ」
「いやっ、言いたいけど絶対断られるのわかってるからさー…あはは」
虫に関連する頼みってのは目に見えてわかる。でも脱ぐ必要ってなんだ…?
「言うだけならタダだろ?早く言えって」
「えー…、嫌いにならないでよ?」
「わかったから」
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