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第2話

「愛弥様は好きな食べ物なんですか?」 唐突の様づけである。一瞬俺以外に話しかけてるのかと思ったが違った。 それにしても好きな食べ物って…どういう質問だよ。他になかったのか? 入学式から戻ってきて担任の先生が来るのを待っている間の出来事だ。 俺は京介に顔を逸らされたことで大変なショックを受けている最中、数人のクラスメートに質問責めにあっている。 因みに前の席の加賀美君は教室に戻る際他のクラスの人たちに囲まれてまだ帰ってきていない。 「愛弥様の好きなタイプは?」 「愛弥様、入学試験オール満点だったって本当ですか?」 「生徒会入るって本当ですか?」 よくわからない質問責め。加賀美君早く帰ってきて欲しい。 「えーっと、あのさ、同級生なんだから敬語とかやめない?」 「なんてお優しい!!」 「流石愛弥様です!」 「いや、だからさ…敬語も様付も俺には…」 「それはいけません!愛弥様はいずれは生徒会に入るであろうお方!そんな方に様を付けないなんて…!!」 「あの、俺生徒会とかよくわかんないし、俺なんかが入っても嫌だろうし…」 「何を言ってるんですか!?生徒会に入るしかないでしょう!?その頭脳、容姿、それでいて謙虚な姿勢…なんて完璧なんだ…!」 そうだそうだ!等と勝手に盛り上がっている周囲のクラスメート達。正直何が起こっているのかわからない。なんでこの俺が取り囲まれ生徒会に入れ等と言われているのか。聞いた話だと生徒会の人間はみんな顔が良く頭も良く完璧人間の集団だとか…。どうして俺が生徒会に入れると騒いでいるのか。もしかして新手のいじめとかだったり?それは嫌すぎる。せめて高校生活だけは平和にみんなと仲良くしたい。 「あの、さぁ。生徒会とか俺にはよくわかんないんだけど、俺はこのクラスで平和に過ごしたいんだ…。だから、その…みんな俺と…な、仲良く、して欲しいな…なんて……。」 勇気を出して俺の本心を伝えたのだけど周りのみんなは固まっている。これは間違えたのか? 「あっ、えっと…ご、ごめんなさい!いきなり仲良くとか、調子に乗ってた…」 「愛弥様!!!」 「えっ!?」 「感激です!!!!仲良くなんてそんな!!恐れ多い!でも!愛弥様がそれを望んでいらっしゃるのなら!」 「え、じゃあみんな…仲良くしてくれるの…かな…?」 「愛弥様――――!!!!」 なんかものすっごく感動されているけど仲良くしてくれるらしい。よかった。これで俺の高校生活も安泰だ。周りのみんなはさっきよりも盛り上がっている。今更だけど俺の横の席の子に迷惑なんじゃ…。 「あの…みんな、俺に話しかけてくれてありがとう。でも、あんまり大勢で来られると、その…横の席の人にちょっと迷惑だから…」 「周りへのご配慮も忘れていない愛弥様!素敵です!!大変失礼いたしました!今後は人数を絞って参ります!!」 「あ、うん。ありがとね。」 一人の子がそういうとみんな蜘蛛の子を散らしたように自席に戻って行った。 やっと落ち着いた。 幸い俺の席は一番後ろの端っこで、横の席の人といっても右隣の人しかいないのだけど… 加賀美君はどうやらまだ帰ってきてないみたいだし。 右隣の子には申し訳ないことをした。まぁ、したのは俺じゃないけど原因は俺だ。 謝っておかないと。 「あの、うるさくしてごめんなさい。」 「別に、気にしてない。」 隣の子は細身で切れ長な目が印象的な子だった。さらさらの黒髪に目が奪われてしまった。 「何か?」 あまりにも見つめていたらしい。失礼なことをしてしまった。 「いや!えーっと、あ…あの、如月愛弥っていいます。これから宜しくお願いします。」 自己紹介をしてしまった。横で煩くされて挙句の果てに不躾に見つめられ唐突に自己紹介とか…意味不明にもほどがある。 「よろしく。雪村梓だ。」 クールな人なんだろう。表情もあまり変わらないし、俺の奇行を気にした様子もない。 「梓くん。宜しく。」 「あぁ。」 梓くんはそれだけ言うと前を向いていしまった。クールなだけだと信じたい。嫌われたとは思いたくなかった。 嫌われたといえば俺はさっき京介に嫌われたばっかりだ。久々に会えたから喜んでくれると思ったのに。俺の思い上がりだったのだ。まさかあんなにあからさまに顔を背けられるなんて…。 「よっ愛弥!」 「加賀美君!」 「入学式の挨拶お疲れ」 「ありがと。加賀美君帰ってくるの遅かったね。」 「ちょっと取り囲まれちゃってな…」 「やっぱりどこの学校でもイケメンは人気なんだね。」 「うちの学校、顔が良い奴が多いんだから俺じゃなくてもって感じ。俺なんてたいして何か出来るってわけじゃねぇのに。」 サラッと顔の事については否定しなかった。あの顔だからそりゃあ自覚はあるわな。 「それこそ愛弥の方はどうだったんだ?」 「え?俺?」 「相当綺麗な顔してるから山田あたりに取り囲まれたんじゃねーの?」 「え?それは…ていうか山田君って…」 加賀美君が指差す方向を見ると先程まで俺の事を愛弥様と呼び話しかけてきた子達の真ん中にいた子だった。 「あぁ。うん。まぁ…。」 「やっぱりな!山田の好きそうな顔だもんなぁ。」 「俺の顔が…?」 それは相当普通が好きなんだろう。それか頭が良い人が好きとかそんな感じだろう。 「あいつ生徒会のファンクラブとかに真っ先に入ってそうだけど生徒会には推しがいないからっつって無所属貫いてんだって。」 「そうなんだ。確かにあの感じだとどこか入ってそうだよね。」 「話しかけられたんならもう決まっただろうな。」 「ん?何が?」 「山田、多分お前のファンクラブ作る気だぜ。」 「は!?俺の!?なんの冗談?」 「まぁまぁ、そのうち出来るだろうから待っとけよ!統率取れてたら便利だぜ。」 「便利…?もしかして加賀美君ファンクラブあるの!?」 「まぁ一応な。ちゃんと仕切るやつがいるからそんなに厄介じゃねぇし、なんならあれこれお世話してくれるときもあるから便利なんだよ。」 「そうなんだ…」 「それより愛弥、隣のクラスのイケメンと仲悪いのか?」 「へ?」 「さっき他のクラスの奴がA組に高等部から入学してきたイケメンがいるって騒いでたんだけどな…お前、新入生挨拶の後そのイケメンに挑発的な笑みを向けたらしいじゃん。」 「え?挑発的…?」 「しかも相手のイケメンはあからさまに顔晒したっていうし、バトってんの?」 「挑発的な……俺が…?」 「A組の奴が言ってたぞ。あんなに綺麗な顔で片方の口吊り上げて笑うって煽ってるようにしか見えないって。」 「片方…煽ってる………。」 京介に会えた嬉しさを抑えつつも笑いかけてしまったからそんな笑い方になったのか……最悪だ。 綺麗な顔でっていうのは嫌味だろうな。それにしても誤解を解かないといけない。 「愛弥、どうした?」 「あ、いや、なんでもないよ。」 「それにしてもA組のイケメン君の話しただけでそんなに顔が強張るなんて。余程嫌いなんだな!」 「えっ!?」 「なんかされたら俺に言えよ!まぁ向こうも愛弥から顔逸らすぐらいだし関わる事はねぇか。」 「あ、う、うん。」 俺の馬鹿。誤解を解く前に誤解が広がってしまったじゃないか。 前途多難すぎる…。

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