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第3話 初見世・4

 お酒の席には俺や他の男遊も同席することになっている。今日の風雅さんは飴屋の主人から一本(※一晩中)で揚げてもらっているから、これから朝まで長時間の大仕事なのだ。 「(せつ)様、お待たせしました。風雅にございます」 「おお、風雅……! 待っていたぞ」  前に俺が会った「飴屋 ゆうらい」の主人、来柳節太(せつた)さん。既に一杯引っかけたのか、それとも風雅という男遊に心底惚れているからか、とにかく顔が真っ赤だった。 「俺の彰星がお世話になったそうで、礼を言います。弥代てまり、大変美味しゅうございました」  風雅さんが丁寧に喋っているというだけで、何だか俺まで照れてしまう。 「ははは、今日はもっと良い土産を持ってきたぞ。飴だけでは寂しいから、ついでに新しいキモノを作らせた」 「嬉しいなぁ、俺の節様は日本一の旦那様です」  隣に座った風雅さんから流し目を送られた柳来さんの顔はもう、爆発寸前だ。 「皆にも心付けを弾むぞ、今夜は盛大に飲んで食べて踊ってくれ!」  客間にいた他の男遊が歓声をあげる。上座の柳来さんと風雅さんから少し近い場所に座った俺の前にも、美味しそうなお刺身が乗った御膳があった。──食べても良いのだろうか。  綺麗な黒髪を頭の高いところで束ねた美しい男遊が、三味線を弾いている。その曲に合わせて他の男遊達が艶やかな踊りを披露している。風雅さんが箸で摘まんだお刺身を柳来さんの口に運び、俺は正座したままそれらの光景に見入っていた。  これが、旦那様のいる男遊の「仕事」。楼の皆が柳来さんのために集まって、歌って踊って、酒を飲んで笑って、心付けというお金をもらっている。俺達全員の食事や酒や心付けと、柳来さんはこの一晩のためにどのくらいのお金を使ったのだろう。風雅さんに新しいキモノだって用意しているのだ。  ──飴屋さんて儲かるのかな。 「彰星、遠慮せず食べなさい」  その柳来さんが赤い顔を扇子で扇ぎながら俺に言った。 「い、頂きます」 「洋風のシャツも似合っていたが、その紅色のキモノも似合うじゃないか。ずっと大人っぽく見えるぞ」  何て答えれば良いか迷っていると、風雅さんが柳来さんの腕を掴んで怒ったように口を尖らせた。 「節様、俺が隣にいるのに意地悪でございます。せっかく節様が贈ってくれた『宵闇の雫』を着てきましたのに」 「お前を直視していると酒の回りが早くてな、倒れてしまいそうになる」 「俺のことも酔わせて下さいな」  妖艶な笑みで柳来さんを誘う風雅兄さん。あんな風に間近で微笑まれたら、柳来さんじゃなくても真っ赤になってしまう。  しかし俺の前ではぶっきらぼうで口も悪い風雅さんなのに、柳来さんの前ではまるで人が変わったようだ。喋る速さはゆったりしているのに凄く頭が良さそうに見えるし、男らしさに変わりはないのに、どこか花魁さんみたいな色気がある。  もしも彼が柳来さんの前だからとわざとそうしているのなら、相当な役者だ。 「節様、そろそろ」  そうして宴が終盤に差し掛かったところで、風雅さんと柳来さんが奥の寝間へと入って行った。そこから先、朝までは二人きりの時間だ。前に目の前で見せられた雷童さんと田崎の大旦那がしていたことを、今度は風雅さん達が行なうのだろう。  ──今日は寝間に呼ばれなくて良かった。

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