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第6話 寿輪楼夜話・7
数日後──
「がははは。お前あの本読んで、夜寝小便したんだってな。もう噂は聞いてるぜ!」
「ぜっ、全部天凱さんのせいですから! お義父さんにまで笑われてからかわれて、もう本当に恥ずかしかったんですから!」
豪快に笑う天凱さんの胸を何度も拳で叩き、俺はさっさと布団に潜り込んだ。
「おいどうしたよ彰星。機嫌直して、ほれ。ケーキ食ってお前のことも食わしてくれ」
「嫌ですっ。今夜はもう寝ます。ケーキは天凱さんが寝てる間に全部食べますからね!」
「彰星ちゃん」
しゅんとなって俺の名前を呼びながら、天凱さんが布団に入ってくる。
「まあ、悪戯しちまった俺の自業自得だわな! いいさ今夜は、こうして抱いててやるから良い夢見て寝ろよ」
「………」
こんなの、天凱さんじゃなきゃ許してくれない。怒って客に体を開かず寝るなんて、場合によっては折檻のお仕置きものだ。
「……天凱さん」
「うん?」
「……本、ありがとうございました」
照れ臭くてもごもご口の中で呟けば、俺を後ろから抱く天凱さんが満足げに笑ってくれた。
「また持ってくる。今度は西洋の綺麗な絵本を持ってきてやる」
「天凱さん」
俺の胸の前で交差する彼の手を取り、その小指に自分の小指を絡める。
「約束ですよ。きっとまた俺の所に来て下さいね」
「指切りげんまんか」
「天凱さんを殴ったり針飲ませたりはできませんから、あの口上は言いませんけどね」
いいさ、と天凱さんが俺の首筋に口付けた。
「針を飲むのは嫌だが、お前に怒られるってのは逆に気持ちが好いなぁ。拗ねた仔犬みたいに可愛くて、甘やかして機嫌を取りたくなる」
「………」
俺の心をこんなにも縛って、泣かせて、本当にこの人は悪い男だ。
「お前だけだよ」
その言葉が本当なら、俺は遊廓で頑張れる。
その言葉だけを信じて、俺は俺の男遊道を歩き続ける。
指切りげんまんを誓うのは、自身の決意に対してだ。
第6話・終
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