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第8話 兄さん達のとある事情・6
ひとしきり笑ってから、天凱さんが俺を抱いて囁いた。
「天照さんのこと、勉強してくれたんだな」
「……花先生に聞いて……あまてらす様は、太陽の神様だって。太陽みたいな天凱さんにぴったりだと思いました」
「天照は女と言われてるんだけどなぁ、まあいいか。……それなら彰星は、|天津甕星《あまつみかぼし》だな。星の神さんだ」
「そ、そそ、そんなのバチが当たります!」
高速で首を横に振る俺を見て、天凱さんが思い切り噴き出す。
「あっ」
そうして俺の都合で俺から天凱さんを呼び出したにもかかわらず、結局いつものように布団へ転がされてしまった。
「さっきの、兄さん達にやり方聞いたか」
「ん、……あ、雷童さんと、風雅さんに……」
「……見たかったなぁ。お前が兄さん達に挟まれて、手取り足取り教えてもらってるとこをさ」
「何言ってるんです……あぁっ!」
俺の両膝を持ち上げて開かせながら、天凱さんが舌なめずりをする。
「俺はやり方を教えるんじゃねえ。お前にしたいだけだ。だからいいな彰星、俺の舌使いを勉強しようなんて思うなよ。他の客に試そうなんて間違っても思うなよ」
そんなこと、死んだってするものか。
「あぁっ……!」
俺は天凱さんの焦げ茶の髪を緩く掴み、内股を痙攣させながら身悶えた。熱くて甘い感触が俺のそこをすっぽりと包み、中で何度も舐られる。遊廓という俺達は夢を見ることが許されない場所で、この時ばかりはめくるめく夢の中へと誘われる。
「あぁっ、あ……だめ、天凱、さんっ……!」
浮いた腰と布団の隙間に天凱さんが手を滑らせ、更にがっしりと押さえ込まれてしまった。逃げられない快楽というものはどこか恐怖にも似ている。このまま気を失ってしまうか、おかしくなってしまいそうだ。
「はぁっ、あぁ、……! ──ああぁっ!」
背中を反らせた瞬間、全身がカッと熱くなって──俺はまた天凱さんの口の中へと気を放ってしまった。
「は、ぁ……」
天井の明かりが眩しくて細めた視界に、天凱さんの顔が入り込む。
「大丈夫か?」
「はぁぁ……もう凄過ぎて……。失神してしまうかと思いました」
「ははは、彰星は素直だからな。演技じゃないのが分かるから俺も嬉しくなる」
そう言って天凱さんが俺の唇を優しく塞いだ──その時。
兄さん達が吸っていた煙草のことを思い出し、俺は彼の肩に置いた手に力を込めてその体を押し退けた。
「て、天凱さんは、煙草は吸われないのですか?」
「煙草? 若い頃は吸ってたけど、本格的に菓子作りを始めてから止めたぞ」
「……そうですか」
やっぱりお客さん側は、精液を口の中に出されても気にしないものなんだろうか。
「何だ、煙草吸ってる男が好きか? それなら見世にいる時だけ吸うようにしてやるぞ」
「いえいえ、それは良いんですが。口の中、俺の精液で気持ち悪くないですか?」
「……別に、考えたことねえなぁ」
首を傾げて考え込んでいた天凱さんが、何かに気付いたように「そうか、そうか」と俺の上から体をどかした。
そうして畳んでおいたスーツのズボンのポケットを弄り、取り出した包みを俺に差し出す。
「これやるよ。店の常連のおばちゃんがくれたんだ」
「あれ、……これって、飴玉……」
「|薄荷《ハッカ》の飴だ。うがいした後に食えば口の中がスーッとなるから、ないよりはましになると思うぞ。沢山あるから他の兄さんにも分けてやるといい」
ああ、また要らぬ勘違いをさせてしまっている。彼は俺が他のお客さんに尺八をした後の処理に悩んでいると思っているのだ。
ここで下手に弁解をしても嘘臭くなるし、遅かれ早かれ今後は別のお客さんにもそれをすることになる。俺はありがたく薄荷の飴を受け取り、黙ったまま天凱さんに抱き付いた。
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