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第11話 思いがけない1日・4

「へえ。今年は男娼楼と女娼楼で、場所を分けるんだ。……知らなかった」  恋路園に着くなり入り口の男の人から説明を受け、俺達は右側の広場へと行かされた。雷童さんががっかりした様子なのは、恐らく綺麗なお女郎さんのキモノや髪飾りを見て参考にしたかったからだろう。 「むさ苦しい男だらけの集まりになるってことか」 「で、でも風雅さん。もしかしたら女性のお客さんはコッチに来てくれるかもしれませんよ」 「どうせウチで女にモテるのは一郎太だけだ」 「群がってきた女の子を、次郎太が蹴散らすさまが目に浮かぶね」  前に天凱さんと見たテッセン、ヤマボウシ。今日もきらきらと輝いて、本当にこの世の極楽みたいな場所だと思った。  ここは巳影勇蔵と出会った場所でもあるけれど、俺の心にあるのは天凱さんと歩いた幸せな思い出。それから、ボートから落ちた時の可笑しくて堪らなかった記憶だけだ。 「あっ、あったよ。寿輪楼の屋台!」  たいやきと描かれた看板には、寿輪楼の紋がでかでかと入っている。  鯛の形をした鋳物の型。そこに番頭の漸治さんが生地を垂らし、たっぷりと餡子を乗せる。その上からまた少し生地を垂らして、ガッチャンコと反対側の板を被せて挟み、ぐるんと回転させて焼く。  型の中で鯛が焼けて行く様子を想像し、口の中が涎でいっぱいになった。 「おお、来たか三人衆とお付きのチビ達。どうだ、鯛焼き味見するか? 矢多丸さんが来ねえうちに、特別サービスだ」 「やった! ありがとうございます!」  ご機嫌な漸治さんが何と無料で俺達に鯛焼きをくれた。アツアツでホカホカだ。熱いお菓子というものを初めて口にした俺は、目玉が飛び出るかと思うほどの美味しさに思わず天を仰いだ。 「美味いねー。尻尾まで餡子が詰まってる。完売するといいねぇ」 「らいどうひゃん……ほっぺたがおちます……」 「彰星、口に餡子付いてるぞ」  急いで食べ終わったのと同時に「おおい!」と声がして、揃って顔を向けると丁度他の兄さん達がこちらに歩いてくる姿が目に飛び込んできた。 「たい焼き! 俺達にも一つくれよ!」  小椿さんは黒地に名前の通り椿が入ったキモノ、一郎太さんと次郎太はお揃いの袴、桃好きの銀月さんは市松模様と桃色の対比が愛らしいキモノで、頭にも桃の花が付いている……女の子みたいだ。  皆が集まったところで店番の交代時間を決め、ひとまず俺と風雅さんと雷童さんは先に他の屋台を回って楽しむことになった。 「春和歌にお小遣い渡しておくから、三人で仲良く分けて使うんだよ。あと、迷子にならないようにね」  雷童さんが淡雪や鈴鞠の分まで含めたお金を春和歌に持たせてくれている。そこまで気が回らなくて、俺は恐縮しながらお礼を言った。 「すみません淡雪の分まで……」 「あはは、いいんだよ。田崎の旦那様がくれたお金だから」 「ちゃっかりしてるよなぁ雷童は。お付きの小遣いまでねだったのかよ」 「だって皆で楽しみたいじゃん!」

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