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第11話 思いがけない1日・7
風雅さんはまだ怒っていたけれど取り敢えず仕切り直しということで、俺達は再び屋台を回りながら広場を歩き始めた。
「金魚すくい! 面白そうですよ、雷童さん!」
「金魚可愛いけど、金魚鉢買うことになるよ。また借金増えるよ~」
「うう……そっか。俺もう今回の罰を許してもらうのでだいぶ借金増えちゃったから……」
落ち込む俺の背中を叩きながら、風雅さんが笑って元気付けてくれた。
「借金塗れなのは全員同じだ、しばらくは我慢しろ。どうしても欲しいなら若さんにねだった方が良いぞ」
名残惜しいけど、諦めるしかない。これ以上天凱さんに迷惑かけられないし。
それに、俺は年季が明けたら天凱さんの元に行ける。先のことがどうなるかは分からないけれど、その約束がある限り俺は何だって我慢できる。
「………」
「何笑ってんだ」
「へへ。実は俺、天凱さんと――」
「あぁっ! 見てよ彰星、あれ!」
言いかけたその時、雷童さんが前方を指して大声をあげた。その場で背伸びをしてみても人混みに遮られてよく見えない。
「な、何があったんですか?」
「若さんが店出してるよ。今ちらっと顔が見えたもん」
「えぇっ!」
咄嗟に駆け出した俺の背後で、風雅さんが「馬鹿、走るな!」と叫んだ。
この人混みの先に天凱さんがいる。
世界一大好きな天凱さんがいる。
天凱さん。俺の旦那様――。
「……天凱さん!」
「おっ」
目が合った瞬間、周りの喧騒がまるで水に溶ける一滴の墨汁のように消えて行った気がした。
時間が止まった思い出の恋路園。雪のように美しいヤマボウシを背景に笑っているのは、俺がただ一人心に決めた、昨日会ったばかりにも関わらずもう泣けるほど会えて嬉しい殿方だ。
「彰星! 良かったぜ、会えて」
「天凱さんっ……!」
ほっぺたがポッポと熱くなって、今すぐその逞しい胸に飛び込みたくて……
「てっ、――いだぁっ!」
周りを顧みず天凱さんに向かって突っ込もうとした俺の腕を、追いかけて来た風雅さんが思い切り掴んで引っ張った。
「阿呆、屋台ごとなぎ倒すつもりかっ」
「う、腕が抜けるかと思った……」
「二人共、速いよ!」
遅れてやって来た雷童さんが膝に手をついて呼吸を整えている。怒る風雅さん、痛がる俺、汗だくの雷童さんという構図を見て、天凱さんが腹を抱えて笑い出した。
「がははは、寿輪楼の小僧達は相変わらず落ち着きがねえな!」
「天凱さんっ……」
「はぁ。……キキョウのキモノ似合ってるぞ、彰星。凄く綺麗だ」
「て、天凱さんもっ! 凄くカッコいいですっ!」
笑い過ぎによる涙の滲んだ目元を拭う天凱さんは、今日は頭にタオルを巻いていた。キモノも夜空色の甚平で、西洋菓子とは真逆の粋な格好をしている。
天凱さんの顔しか見ていなかったから気付かなかったけど、改めて屋台の看板を見上げるとそこには「たこ焼き」と描かれてあった。
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