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Summer time Blues~Another~

店を閉め、照明を落とした航成は静かな足取りで二階へと上がる。今日は少し遅くなった。もう既にベッドに入っているだろうかと予想した同居人は、ソファーの上でテレビを横目に洗濯物を畳んでいる。相変わらずよく働くと半ば呆れたように苦笑しつつ覬へと歩み寄ると、労るような眼差しが向けられた。 「あのな。明日休みだからどっかに飯食いに行くけど、なんか食いてえもんあるか?」 ステラの定休日は市場が休みの水曜日に合わせている。航成が一人の頃は昼まで眠り、夕方頃には研究やリサーチを兼ねて外食をすることにしていたが明日は覬も連れて行かなければならないだろう。転がり込んできた同居人一人を置いていくわけにはいかない。 「……飯…」 「なんでもいいぞ。中華でも和食でも」 洋食屋のコックだからといって洋食ばかりを口にしていては料理の幅は広がらない。呟く覬に笑い掛けながら促すと、覬はちらりとテレビに視線を向けた。 「…ロイヤ〇ホスト」 「ああ?なんでまた…」 意外な言葉が返ってきた。首を捻る航成におかしなことを言っただろうかと眉を垂れる覬が、それでも真剣な目で身振り手振りを交えて繋ぎ始めた。 「さっきテレビで映ってた。こう…オムライスの上に…ハヤシライスが乗った…」 「……、…ハッシュドビーフか?」 その料理は当然航成も知っている。なるほど航成が作るオムライスはチキンが入ったケチャップライスを玉子で包み、自家製のケチャップをかけたものだ。 真摯な目をした覬を見下ろし、ふうんと鼻から息を抜いた航成が唇を尖らせる。なんだよ、と呟く声が少し子供のように落ちた。 「あれなら俺が作る方が美味いぜ」 「作れるのか」 「当たり前だろ。俺ならあれにハンバーグ乗せてやるよ」 「ハンバーグ、」 たちまち覬の目が輝き始める。その姿を見た航成が子供舌めと頬を緩めた。 「それが食べたい」 「じゃあ明日は家で飯な」 外食はランチにでも回そうか。 美味い料理を作る自分には、美味そうに食ってくれる人間が必要だ。深く頷く覬の髪を、嬉しげな空気を纏った指がくしゃくしゃと混ぜた。

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