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ハロー、マイライフ。

え、お前んち初詣とか行くの。うちさ、毎年行くんだよ。家族で。 そんな会話をしたのはもう三年前になるのか、と思いながら雪を踏む足元を見下ろした。なんの違和感も無しに同じ歩幅で行く自分より1センチサイズの大きなブーツの爪先を見遣り、顔を上げる。小さな街の小さな神社は一月三日ともなれば人出は多少なりとも落ち着いたのか、神社らしい静けさが広がっていた。 自分は二回目だから初詣じゃないな、と昨年と同じように笑いながらポケットの小銭を探る様子を、気が付くと目に、脳裏に焼き付けるように観察していた。 毎年同じように並べた肩は、毎日同じように歩いた歩幅は、もうじきこの街からいなくなる。 外の大学受けるんだ、と照れたように笑った彼の目が、少し寂しげだった事が自分の救いのように感じた。 賽銭箱に五円玉を放り投げ、柏手を打つ。参拝の作法を教えてくれたのも、彼だった。 「何お願いした?」 君が大学に合格しますように。 君が春から行くはずの別の街で、変わらぬまま、君が君のまま元気にいてくれますように。 君が、 ーーー君があの時寂しそうにした理由が、僕と別れることを思ったから、でありますように。 「…教えない」 「なんだよ」 祈る手の平を解いて顔を上げた彼が、いつものように少し困ったように笑う様に胸が浮いた。 自分の選ぶ進路は、この笑顔と離れることだと気付いたその後も、自分はこの胸が高揚する理由を口には出せない。 離れてしまうことも、この思いを口にすることも怖いのだと、柄にもない臆病風に吹かれてはどうすれば良いのかわからなくなる。 「そっちは?何お願いした?」 君がいつまでもこの街で君のままでいてくれますように。 俺の知らない間に大人になってしまいませんように。 春までに、 ーーー春までに、君のその手に触れる勇気が持てますように。 「…秘密」 なんだよ、と笑う手がコート越しに肩に触れた。 明るい空から舞ってくる雪が、春はまだだと告げている気がした。

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