4 / 6

第4話

 ホームページの修正をしていたら、不具合が発覚しシステム課に連絡して調整を頼むことになってしまい、朝霞が自宅に戻ったのは夜の九時を少し回っていた。  帰りが遅くなった為、コンビニに寄って弁当を購入してきた弁当を食べながら晩酌をする。料理が出来ないわけではないが、好んでするほど好きだと言うわけでもない。だから、今日のように仕事で帰りが遅くなった時には、専ら外食か弁当や総菜を買って帰るという状況だ。  恋人がいる時は自宅で一緒に何かを作って食べるのもいいだろうけれど、正直なところ一緒に誰かと食べるわけでもないのに、料理のするのは億劫になってしまい、ついつい手を抜いてしまっている。  だからといって怒られる相手もいないわけだから、気楽と言えば気楽だった。  晩酌を終え、ベッドの壁を背もたれにタブレットで暇つぶしをしていると、また隣人の声が聞こえてきた。 『お前はほんとに……。あははは、丸見えになってるな……だろう? ……女みたいな……へえ、そう……、突っ込まれたいんだろ?』  ――隣のやつは、いったい何をしているんだ?  恋人とでも電話をしているのだろうか?隣の住人の行動など、どうでもいいと言えばどうでもいいのだが、聞こえてくる内容からすると、どうやら毎回誰かに性的な命令を下したりしているようだ。  全ての内容が聞こえてくるわけでもないから、朝霞にはよくわからない。けれど、内容が内容なだけに気になってしまう。おそらく朝霞でなくても、隣からこんな内容の声が聞こえてきたら気になるだろう。 『はっ、どうせ会社でも、……考えて勃たせてるんだろう?』  ――……? 相手は男なのか?  朝霞は今まで、隣人が彼女か誰かに電話でもしていると思っていたのだが、女相手に『勃たせてる』という表現はしないだろう。隣人は男で間違いはない。たとえ微かに聞こえてくる声だとしても、男か女かくらいは分かっている。だとすると、隣人の相手は男ということになるだろう。 『恥ずかしい? ……好きなくせに。……ケツに……だろうが!』  途切れ途切れに聞こえる声が、余計に興味を引く。何を言っているのか気になってきた朝霞は、手に持っていたタブレットを置いて壁に耳を近づけてみた。 『女の格好をして、俺になんて言われたいんだ? 変態だとでも言ってほしいのか? そうやって馬鹿にされることも、お前にとっては快感だろう?』 『女の下着を着けた情けない格好を他人に晒して興奮する変態野郎だからな。はぁ? 好きなんだろ? 他人に馬鹿にされて、蔑まれて、それが堪らなくいい。違うのか?』 『見られる前から、自分でケツに突っ込んで一人でやってたんだろ?』 『俺にやられてると思って、それ突っ込んでみろよ? 出来るだろう? お前は入れて欲しいってよがる女と変わらねえからな』 『ほら、さっさとやって見せろよ』  そこまで聞いて、焦って壁から耳を離した。もっと聞いてみたい気もしないでもなかったが、隣人を盗聴しているようで悪いような気分になったからだ。  けれど、内容がしっかり聞き取れてしまったことで、隣人の相手はどうやら女装癖があるらしく、見られることに快感を覚え、そして自ら後孔へと何かを入れるよう隣人に言われているらしいことがわかった。  ――かなり変わった性癖の持ち主だな。  隣の声を聞いておきながら、かなり妙な気分になってきた。他人のこういう声を聞くのは初めてだったからだ。今日まではうっすらと聞こえてきただけだったけれど、内容をしっかり聞くと隣人はゲイの上どうやらSのようで、それも女装癖のある男を相手にしているなかなかの変態である。  朝霞は気分を変えようとシャワーを浴び、おかしな声がしても眠れるようにとグラスに氷を入れるとウイスキーを注いで、口をつけた。

ともだちにシェアしよう!