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第2話 水神

 無理だと思った。  こんなのムリだ。  絶対に。    儀式に捧げられたのはわかっていた。  人身御供。  村に疎まれた家の息子。  兵に行くのを拒否した。     人を殺すのが嫌だったから。  お前の命に価値はない。  だからせめて村のために使え、と、何十年に一度はある旱魃の儀式に引き出された。  クソみたいは話だとは思ったが、  妹たちが代わりになるよりかは、と引き受けた。  本来は少女が犠牲になる儀式だったが、いつからか形骸化して、村の力のない家の若者も使われた。  村に雨をもたらす水神様との婚姻。  婚姻とは名ばかりで、洞窟に入れられ出口をふさがれ閉じ込められる。  無意味に殺されるだけだ、そう思っていた。  神などいない、と。  妹はまだ12と14。  死ぬには早すぎる  自分も20は越したばかりだが、疎まれた家に嫁に来るものもいないし、この村は疎むくせに逃げさせてくれなかった。  妹たちだけなら、この腐った村から出ることが出来たおばが引き取ってくれる。  外でなら幸せになれるはずだ。    手放せなかった。  もっと早く手放せば良かった。  でも、できなかった。  愛していたから。  親がなくなり、身を寄せあって生きていたから。  こうなって良かった。  村はこれで逃がしてくれる。  このために自分達は生かされていた。  いつかこの儀式に使うための犠牲として。  自分を差し出したから、手放してくれる。  一家に一人以上は使わない。  それは決まっているから。  岩と土で閉じられていく出口を見ていた。  死ぬのだな、と。  そして、奥へむかった。  神など信じていなかったが、神がいるという奥を見るのは面白いと思ったのだ。  手にしたロウソクの光は心もとなかった。   だけど、奥から淡い光が差してくるのがわかった。  青く淡い光。   迷わなかった。  どうせ死んでいるのも同然なのだ。  進んで行くと、光の穴が見えた。   この洞窟はどこかへ続いているのだ。  助かるかもしれない。  その光にむかって進んだ。  そして、その光る出口から外に出た。  光は溢れていた。  でもそこは外ではなかった。  青い青い光が溢れる、広い洞窟に繋がる穴だったのだ。  広い、広い穴は深く深く下にひろがっていて、壁に生えた苔が青い光を放っていた。    岩を荒く削った階段があることに気付く。  下へと。  下りるしかなかった。  他に行く先などないから。  そして、降りた先に、神がいた。  神々が。  〈男か。  兄がくるとはな。  奴らは女の方を大切にしないから妹のどちらかが来ると思ったが。〉  〈仕方ない。  娘の方が良かったが。  仕方ない〉    〈どうだ?    お前次第だ。  この男でもいいか?〉  〈お前が嫌なら、また何十年か待つだけだ。〉  〈何、どうせ、干魃があったら連中は誰か連れてくる〉  〈仲間なんかなんとも思わない連中だ。  我々から嫁を頼んだこともないのにな〉    〈だが、我々もよそから血をいれる必要がある。  連れて来てくれるならありがたい〉    〈お前がコイツが嫌なら殺しておくぞ。  お前が嫌がることはさせられない〉    声が響く。   何か話し合っていた。  言葉はわからないのに意味はわかった。    洞窟の底は広い広い広間のようになっていて、神々は滑らかな岩々にそれぞれ悠々と腰掛けたり、寝そべっていた。  青い半透明な姿。  青い透き通る髪。  銀色の目。    十数人の彼らが神なのだとわかった。  〈いや、我々は神などではない。  勝手にお前らがそう決めているだけだ。  お前だって神などいないと思っているのだろ?〉  彼らは笑った。  〈確かに捧げられた嫁は貰っているがな。   連れて来てくれるのはありがたい。  我々は違う血が必要なのだ〉  〈ちゃんと我々が娶った嫁達は幸せにしたさ。  我々はお前達と違って愛情深い〉  〈もちろん、娶らなかった嫁達はのこと知らない。  我々も連れて来られても、気に入らないことはある〉  〈その者たちはここで野垂れ死にしたが、それは我らには関係ないことだ〉  どうやら婚礼は実際にしているらしいとわかった。  前の婚礼は60年前、その時の娘や若者はどうなったんだろう。  〈愛していたさ。  人間は早く死んでしまう〉  どこか悲しい声がした。 心を読まれると知る。  〈この前の儀式の男?  愛していたよ。  死ぬまで愛したさ  そのまえの前?〉  〈あれは我らから嫌がられたからその辺に骨になっているんじゃないかな〉    面白そうに声は言う  〈お前の妹が来ると思っていた。  そのつもりで、我らも相手を用意していた〉  そこからは困ったような声だった。  〈我々もだな、人間と婚姻するためには準備が必要なのだ。  人間と子を為せるように〉  〈人間と婚姻しても良いと言うものを選び、その身体を変えるのだ〉   〈子が生まれてたら、元に戻れる。  だが、困ったな。  お前ではな〉  こちらだって、半透明の神々なんかごめんだ、そう思った。    〈言うじゃないか。  お前は愛されなければ、ここで死ぬんだが〉  〈まあ、仕方ない。  お前と子を作らないなら、身体が戻らないとしても、ちょっと待てばどうせやつらは次をつれてくる。  我々には数十年など短い〉  声は笑った。    死ぬつもりだったから構わない。  そう思った。  〈どうする?  お前次第だ〉  〈あれを愛してみるか?〉  声が誰かに言った。  誰かが何かを答えたが、それは聞き取れなかった。  ・・・・。    沈黙があった。  〈お前が望むなら〉  そう声はため息をついた。  そして、ふわりと誰かが、目の前におりたった。  それは少年のように見えた。  青い半透明な肌、透き通る青い髪。  銀色の瞳。    美しいと、確かに思った。    妹達と同じ年頃の小柄な少年。  確かに妹達とならお似合いだっただろう。  淡いブルーの布を身体に巻きつけていた。  〈お前の花嫁だ〉  〈愛してやれ〉  〈我々は相手が死ぬまでは、その相手しか愛さない〉  声がして消えた。  神々は姿を消して、この広い地下の洞窟に、その少年と取り残されていることを知った。    花嫁。  花嫁だと。  途方にくれた。  妹達と年も変わらない、おそらく15にもなっていない小柄な少年が花嫁だと。    思った。  無理だ。  絶対。  幼すぎる。    少年は話さなかった。  少年は淡い微笑みを浮かべて、手を握ってきた。  引っ張られ、なすがまま連れて行かれる。  何時間もあるき、青く光る洞窟を抜けて、普通に光らない洞窟に入り、そして、地上に上がった。  暗い洞窟はその半透明の身体が照らしてくれた。  淡く光る。  握る指は暖かくて、小さくて細い。  村で仲を引き裂かれた幼なじみの少女の指を思い出した。  何度か交わしたキスのことも。  そして首をふる。  これは少女ではないし、人間でもない。    でも暖かかった。  地上に上げれば、そこは誰も入らない山の谷川で。  小屋まであった。  手をひかれて連れていかれた。  人間の嫁を迎える準備がされていたのだとわかる。  人間が好む食事と、酒と、花で飾られた寝台。    少年が差し出す食事をした。  腹が減っていたから。  手渡された水や布で顔や手や身体も拭った。  汚れていたから。  だが。  だが。  花を散らした寝台に上がることは躊躇した。  花嫁。  花嫁だと。  お前の花嫁だと声は言った。  この異形の少年と、しろ、と。  頭を抱えた。  少年はベッドの上で膝を抱えてこちらを見ている。  おそらく、妹達のどちらかと結婚させるつもりだったのだ。  妹達に配慮して、外見的な年頃から、この少年が選ばれた。    だが、相手は自分だった。  子を生むまでは元に戻れないとか・・・、だから他の声のように話さないのか?  身体を拭くために服を脱いで、今は下履きしか履いてない。  少年は最初から、布を一枚巻きつけているだけだ。    青い肌は半透明で、それは人間らしくないが、その肌が暖かいことを知っている。  握った指の・・・・細さと暖かさ。  頭をふる、  人間じゃない上に男で、しかも、こんなまだ、子供で・・・。  ベッドの横で頭を抱える。  少年もこまったようにこちらを見ていたが、決心したように頷くと、巻きつけていた布を解いて、その裸体を曝した。  それは、あまりにも拙い求愛だったから、おずおずと脚を開いて全てを見せてくるだけの・・・だから逆に目が離せなくなってしまった。  薄い胸。  細い腰。  人間のモノと同じ、でも未熟な性器。  何より、必死な眼差し。  誘うよりは、求めるような眼差しに、反応してしまった。  「わかってんのか?ホントに!!」  吐き捨てるように言えば、ビクリと少年が身体を震わせた。  でも良かった。  人間ではないこの少年に、何かしてしまう位なら怖がられて逃げられた方が良かった。  有り得ないことに。  欲情していたからだ。    息が荒くなってる。  青い肌だぞ。  子どもだぞ。  男だぞ。  そう自分に言い聞かせているのに、もうその唇の味が知りたくなっている。  少ししかない経験のキスよりあの唇は甘いだろうか。あの小さな唇を噛んで、舌を口の中に入れたい。  少年は顔を歪めた。  どうすればいいのかわからないのだ。  向こうも裸になって脚を広げる以上の誘い方が分からないらしい。  同然だ。  嫁になるのではなく嫁を貰う予定だったんだから。  おずおずとおきあがり、裸のまま抱きついてきた。  寝台から首に抱きつくように。  やめろ、と言った。  でも、肌を感じた  あたたかい肌を。    引き離すつもりで、その身体に触れて、おかしくなった。  触れたい。  指が求めた。  もっと触れたいと。  デタラメに少年が唇をこちらの身体に押しつけてきた。  首筋に、肩口に。  その唇の感触に焼かれるようだった。  ダメだ、  ダメだ。  そう譫言みたいにいいながら、震えて耐えていた。  少年の目がすぐちかくにあって、その目が言ったから・・・言葉よりはっきりと言ったから・・・  〈なぜだめなの〉  そう言ったから、それに答えられないことがわかったから・・・  止まらなくなった  小さな唇をふさいで、その中に舌をねじ込んだ。  小さな 舌をひきだし、噛み、吸った。  舌をこすり合わせながら、下履きを脱ぎ捨て、自分のモノを少年のモノと一緒に乱暴に扱いた。  小さな身体が強張る。  怖がっている。  泣き声がした。  でも、その泣き声さえ貪りながら、その口内を蹂躙した。  優しくしてやる余裕などなかったから。  ダメだと言ったのに。  言っただろ。  呻く。    全部少年のせいにして、自分のものと少年のものをこすり合わせながら扱いた。  少年の未熟な性器は簡単に育つ。  慣れていないのだ。  少年は喘ぎ、小猫のように鳴いた。     声をもらさずにはいられないのだ。  少年は声をあげ、すぐに達したけれど、自分が達するまで構わずにそのままこすり続けた。    少年は達したばかりのそこを擦られて苦痛のような声を上げたけど、もう止められるはすがなかった  少年はすすり泣き始めた。  泣いている少年の胸を吸った。  甘かった。  歯を立てて噛んだ。  その感触を楽しんだ。  舐め、舌先でそこが尖ることを知った。  その芯を唇や歯でもまた確かめた。  腫れて、熱を持つまで。  ますます少年は泣いた。    身体を震わせ、また濡れた性器を勃ちあがらせながら。    怯えているのもわかった。  可哀想だとも思った。  でも、それ以上に。  欲しくてたまらなかった。  知識はあった。  村では結婚まで女性と交わることは禁じられているから。  少年や青年達の中には仲間内でお遊びでするものもいたから。   濡らしてやらないといけない。  優しくしてやれないから。  それだけの思いで、小さな尻を押し開き、その小さなそこを舐めた。  小さな可哀想なそこ。  蹂躙することをもう止めてやれないから。      舌を這わせた時から少年は、驚いたように叫び続けた。  身体を震わせ、前からボタボタと垂れ流し、舐められるだけで何度もイった。   思わず逃げようとする身体を押さえつけ、舌までねじ込んだ時は、泣いて泣いて・・・でも、達した。  指でほぐして、広げた頃には、もう、身体は力無く、しゃくりあげなから、ひきつくだけになっていた。  可哀想だと思いながら、でも止めなかった。  抵抗できないことをいいことに、力無い身体に背後から押し入った。  きつくて暖かくて、気持ち良い。  細い悲鳴に、さらに止まらなくなった。  深く犯す。  小さな身体を。  ごめん、と謝りながら。  許さないでくれ。  そう言いながら。  小さな尻を掴んで入っていく。  逃げそうになる身体の薄い胸を撫でさすり、その薄さに罪悪感を覚え、だからこそ興奮していた。  何にも知らない身体の奥までこじ開けた。     小さな身体が反り返り、細い喉から笛のような音がした。  お前の物になるから。  お前が何なのかわからないけど、お前の物になる。  どうせ、要らないものだから犠牲にされた身体だ。  お前が欲しがってくれたなら、お前のものだ。  お前だけのモノだ。  そう叫んだ。  深く奥まで穿ちながら。  貫き、擦りあげながら。  少年がどう感じていたのかはわからない。  でも自分に絡みつくようなその中の感触に止まらなくなった。    お前だけだ。  お前だけが、オレを。  叫びつづけた。  何かが胸の奥から溢れてきて、止まらなくなっていた。  その声を聞いてくれていただろうか。  叫びの中で、それでも少年も一緒にイったのは確かだった。  可哀想にもう快楽とはよべなかっただろうけれど。  それでも少年は男にしがみついた。   放さないとでも言うように。    抱きしめた。  青い肌も、男であることも、幼いことも、もう関係なかった。  この神に捧げられた生け贄であることが、幸福でしかなかった。    日々は流れ、二人の生活は終わる。  人間はそれほど長くは生きられないからだ。  「子供は?」  年老いた男は聞く。  この結婚は子供が生まれるためのものだったはずだ。  あなたが死んだら生まれる。  あなたの身体を苗床にして、あなたの亡骸を食べて。    少年は泣きながら言う。    「そうか」  年老いた男は笑った。  二人で世界を巡ったのだ。  色々な経験をして。  少年は大人になることはなかった。  人間の姿を取ることはあっても。  幼いままで。  あなたが愛してくれた姿だから  少年が云う。  「それは誤解だ。オレは子供が好きだったわけじゃない」  苦笑いして男はいう。  「お前を愛したんだ。オレを望んでくれたから。あんな酷い目にあわせたのに」  男は微笑む。  「仲間のところへ帰ったら、また、誰かを愛してくれ。お前の一生は永い。永いから・・・」  男は事切れた。  少年は首を振った。  永く生きることがどれほど辛いことなのか・・・  それを悟って。  人を愛することが必要なのは、彼らに人が悲しみを教えてくれるからなのだと知って。   END        

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