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 保さん以外に家族なんていらない。  きっと顔を見てもその思いは変わらないのだろうけど、保さんの事を少しでも知りたい。 「これ以外はちょっとすぐには出せないんだ」  申し訳なさそうに、俺に向かって差し出されたB5版程の写真立てを受け取って覗き込む。  白髪のない保さんと、女性と女の子が三人並んで立っていた。  写真屋で何かの記念に撮ったらしいそれはあまりにも堅苦しく見えて、家族とはこう言う物なのかと考えさせる。  口元を引き結んだ保さん、  傍らに立つ目のぱっちりとした少女、  そして、和装の似合う物静かそうな女性…ショウコさん。  俺は、…なんの感情も沸かなかった。  嬉しいとも、哀しいとも、憎いとも。  薄っぺらたい紙に転写された過去の破片は、ただそこに写っているだけで、それ以上でもそれ以下でもない。  在るだけだ… 「中学入学の時に撮ったんだ」  保さんの指先が写真の上を滑る。  懐かしむ横顔が切なくて、俺は慰めたくて保さんに寄り添った。 「…楷くん、君がいてくれて本当に良かった」  心地よく耳を打つ声、頭を撫でられる事も、もう怖くない。  保さんが与えてくれるものは、全てが優しかったから。  男の二人暮らしで、家がとんでもない事にならなかった理由は2つある。  一つは、俺も保さんも散らかす質じゃない。もう一つは週に2日、家政婦さんが来て家の中を掃除してくれていたからだった。  少しポッチャリとした家政婦の室井さんと初めて会った時、その動きの早さに仰天した。 「はい!これとこれとこれは洗濯機!」  雇い主の家族を平気で手伝わせる彼女だったけれど、俺はそれがなんとなく嬉しかった。 「あら写真!あっ…」 「俺が直すよ」  珍しく彼女が物を取り落とした。  毛足の長い絨毯に落ちた写真は幸いどこも傷まず、留め金が外れただけだった。  額から零れた写真を拾い、何気に裏を見ると几帳面な字で三人の名前が書かれている。 『保』 『章子』 『薔子』  たもつ…しょうこ……そうこ…かな? 「あれからもうずいぶん立ちますねぇ、写真を飾られてるって事は旦那様も立ち直られたのかしら」 「二人…死んじゃった事?」 「…あれは酷かったから」  俯き、そう呟く室井さんの雰囲気が怖くて、俺は写真を直すのに忙しいフリをして聞き流した。

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