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すぅすぅ…と息が漏れ、暗い常夜灯の作る深い影に眠りの合図を見付けると、ゆっくりと体を起こして保さんを覗き混む。
静かで、あどけなささえ感じるその寝顔にそ…と唇を押し当てる。
腕の中同様、温かく柔らかな唇。
起きている時はいつも穏やかに俺の名を呼ぶけれど…
「ショ……」
今日も零れた名前に胸が詰まり、つん…と鼻が痛くなって視界がぼやけた。
夢の中、保さんは幸せなのか…?
幾ら幸せそうに笑ってくれてても、俺じゃショウコさんの代わりにはならないのか…
涙を拭って、また布団に潜り直そうとした時、ふと何かが引っ掛かった。
「………」
保さんの頬に手を添える。
陰影のせい?
気のせい?
少し、痩せて見えた気がした。
今日も庭は薔薇で煙る。
噎せ返る様な濃密な薔薇と土の匂いに目眩を覚えそうな程だ。
今を盛りのピエール・ド・ロンサールの淡いグラデーションの花々を眺めながら、ぼんやりした保さんはそのまま消え入ってしまいそうな佇まいで、俺は夕陽に目を細めながら近付きたくても近付けなかった。
「……おかえり」
そう振り返った保さんは笑っている筈なのに、赤い陽射しはその笑顔を覆い、黒く沈ませて隠してしまっていた。
「今日は、お祝いしないとね」
声は笑っているのに、表情が見えないのが不安を煽る。
「お祝いよりも、病院、どうだった?」
何処と無く体調の優れなさそうな保さんに、人間ドックを勧めたのは俺だ。
その結果が知りたくて、でも…最近急に痩せた保さんの体に何が起きてるのか分かるのが怖くて。
俺の声は、震えてたんだと思う。
「加齢と、胃が少し荒れてるって」
こちらに歩いてくる保さんはやっぱり笑っていて、いつも通りのその笑顔に安堵した。
「寄る年波には勝てないね」
笑顔が苦笑に変わる。
言われれば、出会った頃より少し白髪も増えた?
笑わなくても、顔に皺が出来る様になっている?
…引き取られてから、何年だっけ?
「お茶、淹れるから入ろう」
「楷くんが淹れてくれるのかい?」
「うん、たまにはね」
俺の背は、もう保さんとあまり変わらない。
もう、子供の様にじゃれつける年じゃない。
何処かで、この気持ちに区切りをつけなくちゃ…
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