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病室に寝かされた保さんは、白い病室に溶け入ってしまいそうな程蒼白に見えて、駆け込んだ俺をすくませた。
「………なにが…っ胃が荒れてるって!?嘘つき!」
目を閉じた保さんに、怒りを露にした声で絞り出すように怒鳴り付けると、すまなそうな表情をして保さんが目を開けた。
「ごめんね」
「なんで…なんで言って……」
本当の身内じゃないから?
石の様な重い言葉が胃の辺りをぐるぐると駆け回る。
吐き出したい気持ちを押さえていると、拳がかたかたと震えた。
「大事な人に、心配かけたくないから」
泣きそうな微笑なのに、この人は何故こんな時ですら俺の欲しい言葉をくれるのか…
「楷くんに、泣いて欲しくないから」
伸ばされた手が頬に触れる。
以前は怖くて仕方なかった人の手が、今では温かで気持ちいい。
「笑っててくれるかな?」
無茶を言う。
「私は、楷くんが笑ってくれると嬉しくなるんだ」
滲んだ涙を、いつも変わらない温もりを持った指先が掬う。
「だから、笑って」
そう言われて笑える程俺は器用じゃなくて…
結局その日はくしゃくしゃの泣き顔のままだった。
毎日、一輪ずつ薔薇を持って病室を訪れる。
庭を埋め尽くす薔薇から、その日一番綺麗に咲いている物を…
日を追うに連れて花に埋もれていく病室で、保さんはどんどん痩せていく。
繋ぎ止めたくて、
支えになりたくて、
でも俺に出来る事と言えば、汚れ物を持って帰り、背中を擦り、他愛ない話をして…そして、薔薇の世話をするくらいだった。
細くなっても温かさを残した手を握り締め、問い掛ける。
「どうして、…保さんは俺を引き取ったの?」
目を閉じたままの保さんは、ん…と低く唸った後、何も喋らなかった。
「た…保さんっ?保さん!!」
すぅっと血の気が下がり、慌ててナースコールに手を伸ばす。
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