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「大丈夫だよ」  俺の手を掴んだ手は力強くて…骨張っていて、食い込む指の痛さが現実を突き付けてくる。 「考えてただけなんだ」 「……何を?」 「ん?…楷くんを引き取った理由」  考えなくては…ならない理由?  落ち窪んだ目を細め、すまなさそうに笑う保さんにすがり付く。 「楷くんはいつまで経っても甘えん坊だなぁ。でも、もう一人で寝れるし、大丈夫だね」  見上げた顔は、やつれて昔の面影すらなかった。  けれど目は、優しくこちらを見て笑う。 「大丈夫」  それは、俺に言い聞かせていたのか、自分に言い聞かせていたのか…  折れそうな体に抱き付いて、繰り返ししゃくり上げる俺の背中を、ゆっくりと辛抱強く、保さんは撫で続けてくれた。  保さん、俺は貴方を……愛しています…  酸素マスクの下の息は微かで、耳を近づけないと呼吸が分からなかった。 「保さん…」  ピクリ…と眉が動く。 「保さん…保さんっ……保さん!保さんっ!!」  名を呼ぶ度に、弱った心電図がピクリと反応を見せる。  それが保さんの苦痛を長引かせると分かっていながら、俺は冷たい手を握りながら名前を呼び続けた。 「たも……ぅ…っ……」  酸素マスクを外して、その唇の端に口づける。  ひんやりと乾き、ひび割れた固い唇。  けれどそれは、保さんの唇。  彼の最後の瞬間に、彼の中に居たくて… 「……、…」  名前を、呼ばれた気がして微かな呻き声しか漏れなかったその口に耳を寄せる。  ほぅ…と深い息が漏れた。 「ショウコ」  その最後の一言を、心電図のアラームが掻き消す。  ピィーーーーーーー…  鼓膜を破りそうな、甲高い悲鳴。  …俺は、やっぱりショウコさんに成り代わる事は出来なかった。

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