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薔薇苅る人

 その子に再会したのは、古ぼけた児童施設の園長室だった。  ガリガリに痩せて、酷く何かに怯えた…みすぼらしい子供だった…  アキコとの出会いは見合い。  親が持ってきた話だった。  特に乗り気な訳でもなく、だからと言って断る理由もなく…私とアキコはなんの激情も情熱もないまま、周りに流されるように結婚をした。  元が華族だかなんだかと言っていたアキコの実家のお陰で、まだ年若く結婚した自分の生活は安定しており、悪く言えばぬるま湯に浸かった様な毎日だった。  そんな日々に、不満ではない何かを感じ始めたのはいつの頃だったか…  和装の似合うアキコは一見大人しく生真面目な良妻に思えたが、裏を返せばで融通の聞かない陰湿な、粘着気質な雰囲気を持っていた。  けれど私は彼女を尊重したし、良い夫であろうと努めた。 「百合が好きなの」  そう言うアキコは、何に置いても百合を好んだ。  絵画、壁紙、食器、ステンドグラス、着物、庭の花まで…  噎せかえる濃密な百合の薫りにいつしか私は圧迫感を感じ、喉が詰まるような、監視されているかのような気持ちになっていった。  自然と足は家庭から遠退いていったが、遠退く度にアキコの私に対する陰湿な執着は増して行き、何時、何処で、誰と会い、何をしていたのかを事細かく確認してくる様になり始めた。 「独りあの家で淋しいんだろう?」  同僚はそう言って無責任に笑う。  私は百合の移り香の臭うスーツにイライラしながら、曖昧にその言葉に頷き、独りで淋しいなら…と、その夜久し振りにアキコを抱いた。  アキコの独占欲を分散させてくれる存在を作る為に…

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