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目に見えて膨らむ腹に、アキコは半狂乱になって罵り、ショウコはきゅっと口を引き結んだまま父親が誰かを一切語らなかった。
今更に世間体と言う言葉を言い出したアキコに寄って、ショウコは高校を中退し、部屋に軟禁状態にされた。
「父親は誰なの!?」
「嫌らしい子!!」
「その年で妊娠なんて!!」
「堕ろしなさい!」
毎日そんな金切り声が続いていた。
もういっそのことすべてを話して…と思う俺に、ショウコは目配せして緩く首を振ってみせた。
「やっぱり…止めないか?」
その腹を撫で微かに伝わる胎動に、それでも嬉しさが込み上げる。
「もう、堕ろすなんて出来ない」
笑うショウコは、堕胎が不可能になる時まで何も言い出さなかった。
分かっていてそうしたのは明白で…
「どうして産もうなんて…」
「私、お父さんの奥さんになりたいから」
きゅっと握られた手。
毅然と上げられた顔。
「家族三人で…暮らしたいから」
歪な中に、凛とした意思を持って、ショウコはそう告げた。
そして春遠い日に、ショウコは私生児を産んだ…
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