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「楷」
そう柔らかな声が赤ん坊の名前を読んだ。
「私が花の名前でしょ?だから子供も花の…って思ったけど、男の子だから木の名前にしたの」
母の顔を見せ、出産の苦労の後を滲ませもしない顔で笑う。
「だから、大きな木の名前を付けたの」
アキコは孫が産まれたと言うのにちらりともしなかった。
顔を見せれば金切り声を上げ、養子に出せと怒鳴りあげる。
小さなショウコに抱かれて眠る、更に小さな存在。
ショウコを取られてしまったようで微かな嫉妬を感じる事もあったけれど、その子を挟んでショウコと共に居る事が出来るのが幸せだった。
それが壊れたのは…一月もしない頃…
不用意だったと言うしかなかった。
親子三人のその空間に気が緩んだのか……ショウコの肩を抱き、口付けをねだるその行動に促されてショウコの唇を優しく吸った。
キィ
一瞬、聞き間違いだと思いたかった。
けれど続く金切り声と本をぶつけられた痛み、そして泣き出した赤ん坊の声に、アキコに見られたのだと言う事がはっきりと分かった。
叫びながら暴れるアキコから二人を庇い、説明しろと喚く声を宥めて引き離す。
「なに…あなたたち……なんなの!?触らないでっ!!汚ならしい!!」
畜生にも劣ると言われ、常識がないのかと問われ……
私とショウコはそのどれに対しても弁明の余地を挟むことが出来なかった。
その関係が人の道に外れている事は、自分達が一番よく分かっていた。
散々怒鳴り散らし声も枯れる頃、アキコは乱れた髪の間からぎょろりと目を剥き、こちらを睨み付けて立ち上がった。
「ふざけるなよ…二人して……私の事をバカにして………許さない…許さない…」
気が触れたように呟きながら部屋を出ていくその後ろ姿に、言い知れぬ恐怖を感じ、枯れる様な声で泣いている小さな存在とショウコを抱き締めた。
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