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アキコの様子は目に見えておかしくなっていった。
空に向かい何事かを呟き、同意し、時に言い返す。
山姥の様な丸まった背中に掛ける言葉も見つからず、何事も無いようにと祈りながら過ごすしかなかった。
───けれど…
電話口のショウコの声が裏返り、その取り乱した風は明らかに何かが起こったと告げていた。
仕事を放り出して駆け戻った家で見た物は、顔を腫らして泣くショウコと、けたけたと甲高い笑い声で幽鬼の様に笑うアキコだった。
「な…に………?」
家の中の惨状も酷く、花瓶は倒れ砕け、家具は薙ぎ倒されてありとあらゆるモノが散乱していた。
伏して泣くショウコに近寄ると、すがる様に手が伸ばされる。
「何があった!?」
「あか…ちゃ………」
ふく…ふく…としゃくりあげる様な笑いが近付いてくる。
「もういないわよ…あんな穢らわしい子…」
ガシャガシャと割れた花瓶を踏み越え、アキコはそう呟きながら姿を消した。
「お父さ……お願い、赤ちゃんっ…」
切れ切れの言葉の中から、赤ん坊が連れ去られたと言うのが分かった。
抵抗した際に殴られたのか、痛々しいほどに腫れた顔をしたショウコを抱き締める。
「まだ…間に合うかも……お父さんっ!!お願いっ!!」
叫ばれ、無駄とは思うも外へと駆け出す。
赤ん坊を連れ去った人間がのんびりこの辺りに居るとは思わなかったが、ショウコの悲痛な声を少しでも慰めたくて走り出した。
あちら…こちらと…
無駄に…走り回った…
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