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「保さん!」  彼の警戒心…と言うよりは、卑屈な考えはそうそう治りはしなかった。  けれども、ガリガリだった体に少しずつ肉がつき、ぎこちない表情が減ってくると、こちらに向ける笑顔の質が変わってきた。  柔らかな、ショウコが溢していたような… 「どうしたんだい?」 「かき集めた葉っぱは?どうしておいたらいい?」  薔薇の世話をしながら他愛ない会話をする。  もしかしたらそれは、なし得なかったショウコとの未来だったのではないかと思うと、疑似でもそれを体験できて幸せだった。  食べ物の好み、しゃべり方、立ち居振舞いを躾に隠して真似させ、趣味嗜好が似るように物事を運んだ。  男の子なのだから、どうしようもない部分はあったけれど…  ふとこちらを見るその仕草の中にショウコを見付けて微笑んだ  幸せだと思った。  再び歪んだのだとしても。  ショウコとの生活が、歪んだ鏡面世界でしか手に入らないのであれば、喜んでその虚構を受け入れた。  小さな温もりを抱き締めて眠ると、幼いショウコを思い出した。  幸せな眠りの中で、あの事に気付いたのはいつだったか…  いつもの浅い眠りだった。  傍らの温もりが動き、トイレだろうかと思った瞬間、柔らかな唇が口の端の方に落とされる。 「保さん…」  そう囁かれて、それがショウコではなく楷の唇だと知る。 「……好き…」  ひやりとした汗が吹き出す。  歪んだ箱庭の様な世界で生きていたのは自分とショウコの筈だった。  なのに───  彼の小さな口付けは毎夜続いた。  彼が浴室で行っている事も…漏れる喘ぎ声で分かっていた。

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