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 楷は酷く寂しがり屋で、その癖それを知られないように我慢する傾向があった。  こまめに見て、様子を窺い、何か普段と違うところがないか常に気をつけた。 「…薔薇も好きだけど、……こう言う花が好き」  名前も知らない小さな花。  楷の雰囲気から、それが本心でないと言う事は分かっていた。  けれどその小さな主張が、ショウコではなく自分を見てくれと言っているような気がして胸が痛んだ。  もしかしたら、楷を通してショウコを見ていた事に気付いたのかもしれないと…  小さな花、名もない様な…細やかな…  それを差し出してきた彼の気持ちを思うと、捨てることなど出来なかった。  彼は全身で、自分を見てくれと訴えかける。  けれどそれはショウコを裏切る…いや、裏切るだけでなく、楷自身をあの歪な世界に引きずり込むことになるのもよく分かっていた。  分かっていた?  そう、分かっていて彼を引き取った筈だった。  狂った小さな世界に引き込む為に、彼を探した筈だった。  誤算…だった…  楷をこの狂ったループに引きずり込みたくないと…そう思ってしまったのは…

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