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二人、穏やかに過ごす日が続いても欲しかったが、いつかどこかで手放さなくてはと…覚悟していた。
「………なにが…っ胃が荒れてるって!?嘘つき!」
そう言われて苦笑が漏れた。
今こうして、自分自身に命の期限が迫って初めて、彼と過ごせた事が幸せだったのだと思える。
私に向かって、涙を流してくれる。
それが大切なのだと、今になって初めて気付くなんて愚かだった。
記憶の中の彼女は、もう記憶の中の自分にしか微笑まない。
それにすがる無意味さに…
生者を蔑ろにする愚行に…
今更ながらに気付くなんて!
「どうして、…保さんは俺を引き取ったの?」
毎日毎日、彼は薔薇を手に見舞ってくれる。
その幸せさを噛み締めながら怠い喉を動かした。
「引き取った理由」
ともすれば、うつら…と途切れそうになる意識で考える。
ショウコの残り香が欲しかった…
ショウコの面影が欲しかった…
ショウコの願いを叶えたかった…
ただそれだけのはずなのに…
楷を独り遺して逝くのが酷く心残りで…
泣かないで欲しいと願う。
遺される者の思いを知っているから…
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