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薔薇育む人
煙る薔薇の中、彼は憂鬱さを隠そうともしない不機嫌な表情の顔をのそりと上げ、俺の方を睨みつけた。
薔薇のティーカップは保さんのお気に入りだった。
その下の段に置いてある白い三つ足のカップを取り上げる。
居心地悪く後ろを振り返ると、彰子さんの年の離れた末弟である「三条忍」は見本になりそうなほどの姿勢でソファーに座ったまま、真っ直ぐに窓の向こうを睨みつけていた。
「………」
カチン とティーカップが台に当たって小さな悲鳴を上げる。
慌てて欠けがないかを確認してからお湯を入れた。
白い器を満たしていくお湯を見つめながら、この作業が延々と続いてくれないだろうかと薄い希望を抱く。
「お構いなく」
声は涼やかと言うよりは月光を反射するナイフのような硬質さを持っている。
思わず竦み上がりそうになり、震えてヤカンを落とさない内に下ろすこととなった。
「あ、あの…今日は いったい……」
三条の名前を聞いたことがない訳ではなかった。
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