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「二階は?」 「三部屋と、浴室が奥に」  上がってすぐの扉に手を掛ける。 「ではこちらから」 「はい」  そこは俺の部屋だ。  かつては彰子さんが使っていたその部屋をオレが使っている。 「………貴方の、部屋ですか?」 「はい」  男の一人暮らしとは言え、保さんとの生活を壊したくなかった俺は散らかすことはしていない。  今朝起きた際の布団が微かに乱れているだけだ。 「それは失礼した」  そう言うと彼は向かいの部屋の扉へと手を伸ばした。 「そこは、保さんの部屋になります」 「そうですか」  彼は拳一つ分ほどだけ扉を開くと、一階の洋間の時のようにちらりと中を見渡す。 「…使われているんですか?」 「え?あ、…いえ、ただ、習慣で掃除だけは…」  保さんの部屋は洋間と違ってまめに埃を払い、風を通すようにしてある。  僅かずつ保さんの香りが消えて行ってしまう切なさはあったが、彼の部屋を不潔のままにしておきたくなかった。 「………。向こうが浴室と…?」 「薔子さんの部屋に…あ、でもっ」  遠慮なく扉を開けようとした彼の背中に声を上げる。 「そこは鍵がかかっていて入れないんです」 「鍵?」 「はい。なので、そこは俺も入ったことないです」  実際はそんなことはなかったが、あの部屋は保さんがそう望んだように、薔子さんの生きていたころのままにしてある。

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