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 俺達の秘密が綴られたあの日記もあのままだ。 「…………」 「向かいが風呂で。それで全部です」 「鍵を」 「え?」 「――――鍵を出しなさい」  バサバサっと床に落ちた書類の音に縮み上がる。 「やめ…止めて下さ……っ」  止めなければと思うのに、俺の体は小さなころに戻ったかのようにみっともなく震えて蹲るしかできない。  薙ぎ払うように机の上が荒らされ、引き出しがひっくり返る。 「鍵を掛けなければならないようなことをあそこに隠しているんだろう?」 「ちが…っ本当に  っ」  床を跳ねながら俺の傍まで飛んできた置物に怯えてさらに身を縮めた。 「ぅっ……」  保さんの思い出をかろうじて保っていた部屋の様が変わっていく。  滲んだ涙はそれが悲しかったからなのか、止めることもできない惨めな自分に対して泣いているのか分からなかった。 「なん、なんでこんなっ」 「言っただろう?この家がきちんと使われているか確かめる…と」 「き、きちんと使っています!   そ…うじが行き届いていないのは認めますが…」 「そんなことを言っているんじゃない」  彼は冷たい目で床に蹲って泣く俺を見下ろし、机を漁る手を止めた。 「男を連れ込んでいないか確認しているんだ」

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