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怯えが体を支配する。
その閉塞感を、
その恐怖を、
俺は思い出して蹲った。
階下に彼がいる
その事実だけで死んでしまいそうだ。
息を止めて、頭の上まですっぽりと布団を被り、膝を抱えた手に力を込めた。
初夏も過ぎかけで暑いはずなのに、それでも俺の体は温まる事はなかった。
トースターに二枚の食パンを放り込むと、二杯分の紅茶を淹れる。
「………」
いつぶりだったか…
こうやって二人分の朝食を用意するのは。
「保さんが…」
保さんが食欲がないからと紅茶しか飲まなくなって……
「起きて大丈夫なのか?」
小さな悲鳴が喉元まで出かけたのを何とか飲み込み、震える手で拳を作って振り返る。
「おはようございます」
「大丈夫なのかと聞いている」
悪寒が背筋を駆け上がってくる。
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