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再び足音が近づいてきた時、また殴られるのかと胸の奥が諦めたように呟いて…
忍さんが言った言葉を聞き逃しそうになった。
「掛けるぞ。いいな」
何事だと、そろりと眼球を動かして見てみれば、忍さんが俺の布団を抱えているのが僅かに見えた。
次の瞬間には馴染んだ感触が俺を覆い、自分の匂いが体を包み込む。
まるでそれは自分を守る殻のように思え…
「………」
それをギュッと握り締めると幾分震えが収まったような気がした。
それでも顔を上げることはできず、そんな俺の傍らに忍さんが腰を下ろす気配を感じた。
「………」
「………」
蹲ったまま息をひそめる俺に、忍さんは何も言わない。
俺も体が凍りついたように動かなくて…
ただ二人で長い時間じっと沈黙していた。
――――ぴ、ぴ、ぴ
沈黙を破ったのは俺の携帯のアラームだ。
会社に行く時間を設定していて、毎朝同じ時間に鳴る。
「……すまなかった」
ぴ、ぴ、と鳴るアラームに掻き消されそうなその謝罪に、心臓が跳ねたのが分かった。
―――オ前ガ悪インダ
俺を犯し、組み敷いた人間の言葉はいつもそうだった。
俺が悪い
―――オ前ガ誘ウカラ
そう、俺が悪いのに…
「君に、 酷い事をした 」
なぜ彼は俺に謝るんだろう…?
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