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 年月を経たつるりと光沢を持つ黒檀の手すりに触れながら階段を上がる。  硝子片で表現された色とりどりの薔薇を眺めながら二階の自室へと入った。 「…………」  俺は、どうして…言われるままに着替えをしているんだろう…  彼が思っているようなことはしていないと、証明してさっさと追い返せばいいだけのはずなのに…  階下でコトコトと音がする。  人が家の中にいる確かな証拠。  長年聞く事のなかった、人の気配。 「寂し…かったのかな…」  日々は仕事に追われ、休みの日は薔薇の手入れに追われ、そんな事を思う余裕は俺にはなかった。  そんな余裕を感じないように生活してきたはずだった。  薔薇に埋もれ、  保さんとの思い出に埋もれ、  それが幸せだと、感じていたし、幸せだった。 「―――――楷くん」  シャツのボタンを外していた手が思わず跳ねた。 「は、い」 「着替え中にすまない。米はどこだろうか」 「あ…」  初めての台所ではそれすらも分からないのだろう。

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