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「機嫌、いいですか?」 「うん、機嫌と言うか…」 「………」 「明るくなったよ」  もともと社交的ではなかったし、場の雰囲気を盛り上げるような性質でもない。  そんな俺を見て「明るくなった」と言うのだから、間違いはないのだろう。  心当たりは、一つしかない。  いや、一人しかいない。 「いいと思うよ」 「あ、ありがとうございます」 「恋人?」  ちらりと脳裏に浮かんだ忍さんの姿に慌てて首を振った。  あの人は、俺が男娼かどうか、あの家をいかがわしい事に使っているかいないかを確認しに来ただけだ。  ただ、それだけ… 「…残念ながら」  きゅっと胸が詰まった。 「恋人じゃないんですよ」  ふわふわとした胸の内がごろりと石を飲んだように淀んだ気がして視線をチューハイの水面に落とした。 「残念ってことは、恋人になりたいんだね」 「え!?」  思わず腰を浮かせたせいでテーブルがガタリと跳ねた。 「違うの?」 「え…と…」  揺れたチューハイの水面では忙しく泡が潰れている。  苦しい胸の内に問いかけようとするも、酒のせいか思考は散漫だ。   残念ながら…はつい出た言葉だ。  あの人は、初めてうちに来た日に俺を無理矢理組み敷いて…  俺の事を男娼だと思って軽蔑しているはずだ。  保さんと同じように、忍さんが俺を見る事なんてないんだ… 「言葉のアヤです」  明らかに不自然に声を落とした俺に、武井部長は何も詮索しては来なかった。

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