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「あの…」
「シジミを買っておいた。風呂に行って来るといい、その間に支度をしておこう」
特に、何も変わらない、いつも通りの忍さんだ。
キッチンに立って、食事の支度をする変わらない後姿。
その背中に、振り返らないかな…と、一瞬願った。
「………」
もちろん、支度を始めた忍さんが振り返る事はなくて…
昨夜の事を気にする素振りもない。
気まずさも、気に掛ける風も…
「……はい、そうします」
小さく頭を下げてから、俺は二階へと向かった。
二階の風呂場に入って服を脱ぐ。
この脱衣所にある洗面台は鏡が大きくて、風呂に入ろうとすると否応なくそれに映る事になる。
それが、嫌だ。
身だしなみを整える時以外は極力鏡を見ないようにしている俺にとっては居心地悪いことこの上ない。
「………」
いつまで経ってもがりがりで、生っ白くて、目だけがぎろぎろしていて…
『気味ガ悪イ』
何度も言われた言葉通りのこんな外見じゃ、誰かに見て欲しいなんて思うのは過ぎた願いだ。
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